ーー年の瀬クライシスーー














































































































世間ではせせこましさに拍車がかかる師走時。
寒さが肌を刺すような屋外で、さらに見た目に温度を下げるホースを片手に持つ潔高に暇人の声がかかる。

「なあ〜、いーじちぃ〜。
雑煮が食べたいから小豆買いに行こうぜ〜」
「ご、五条さん。私は洗車を終わらせないとですね・・・」
「んなもん、後にしろよ」
「勘弁してください、年の瀬の最後の仕事を終わらせて年を越したいんですから」
「呪術師に年末年始関係ねぇだろ〜、んなことより、練りきり、雑煮、栗きんとん、黒豆〜」
(「どれも正月メニューですが・・・」)

並べ立てられた品々に心の中でツッコミを入れながら、潔高は泡が付いた車を水で洗い流していく。
そして、そんな忙しい潔高を当然のように意に介さない悟が腕を取った。

「おら、行くぞ」
「ちょ!あと流すだけなのでもう少し待っーー」
「却下だっつーの」
「いや!あの!ならせめてホースの水を止めさせてください!」
「おいおい、最強相手に水をぶっかける気か?」
「ひぇ!止めるだけです!」

とんだ言いがかり。
とはいえ、それも別に今更だというのも事実か。
学生時代からの悲しい刷り込みの賜物に本気で泣きそうになる。
最強に翻弄され、潔高が手にしたホースも終始落ち着かない。
しばらくして、水が出しっぱなしのホースを持ったまま慌てふためいていた潔高の様子に渋々と悟は腕を離した。

「ち、仕方ねーー」
「お楽しみ中の所、申し訳ないんですが」

寒空の下、さらに底冷えする声が割り入る。
二人が振り返れば、そこにはまるでひっくり返したバケツの水を被ったようなずぶ濡れのが晴れやかな笑顔を浮かべていた。
・・・米神は内心を表すように脈打っていたが。

「騒ぐなら他人に迷惑をかけないように騒いで貰えます?」
「うわあぁー! さん!」
「ぎゃはははははっ!お前、何ずぶ濡れになってんの!」


寒空に響く悲鳴と大爆笑。
腹を抱えて笑い転げる悟に、忌々しそうに深くため息を吐いたは、顔に張り付いた濡れた髪を掻き上げた。

「ったく、硝子さんに渡す書類を届ける途中にたまたま通りかかっただけなのに仕事の邪魔してたどっかの考えなしが伊地知くんに絡んだ所為で水をぶっかけられるなんてロクでもない人がいたもんですよ」
ひ、ひとまずタオルです!すぐに着替えないと」
「ぎゃはははははっ!鈍臭っ!」
「随分騒がしいな」

潔高からタオルを受け取ったの後ろから、気怠そうな歩みで硝子が現れた。
そして、未だに髪から雫が落ちるのなりを見ると、気怠げな表情のまま言い放った。

「斬新な修行だな」
「本気で言ってます?」
「当たるな、冗談だよ」

タオルで拭きながら口端を下げるに、タオル越しに硝子は頭に手を置いた。

「とりあえずシャワー浴びてこい。
そのままじゃ流石に風邪ひくだろ」
「そうさせていただきます。あと、こちらが連絡してた書類ですので」

ビシャッとと同じ状態の書類が硝子の手に乗せられる。
未だにポタポタと水を滴らせるそれは、寒空の下では強制的に目が覚めるような冷たさになっていく。
そして、硝子の淡々とした声が響いた。

「おい、五条」
「あー、腹痛ぇ。ナニー?」
「この間行った店で一番高い酒買ってこい」
「えー、絶対店閉まってんじゃん」
「書類ぱぁにして私の貴重な睡眠時間削っておいて文句か?」

反論を微塵も許さぬ圧に、すんと笑いを収めた悟は敬礼を返した。

「買わせていただきます」

















































ーーその後の任務で会う事になったのは・・・
 >苦楽を共にした同期
 >最強な問題児
 >大人オブ大人な先輩
 >苦みを残したあの人





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2023.06.11