「・・・」

寝る前とは明らかに違う臭いがして目が覚めた。

(「・・・勝手に夜歩きするなって言ったのに」)

小さく溜息をついたは、櫃から布に巻かれた物を取り出した。
すると長い刀が現れはそれを抜く。
そして刀身に映った翳りに眉根を寄せた。

「・・・誰を斬ったの」
『雑魚だよ』
「誰かに見られたら・・・」
『見つかる訳ねぇだろ』

小馬鹿にする返答には眉根を寄せた。

「これじゃあ、刀鍛冶に持っていかなきゃならない」
『いいじゃねぇか、持ってきゃぁよ。金は持ってんだし』
「・・・他人事ね」
『ああ、他人事だ』

つっけんどんな答えには小さく嘆息した。




































翌朝。
人の波間をぼーっと見ていたは、朝から何度目か分からない溜息をついていた。

(「どうしよ、どこに頼めば・・・?」)

ふと、目に入ったのは機械の侍。
その手が肩に担いでいた剣が目に留まった瞬間、思わず身体が動いた。

「あ、あの!」
「ああ?」

声をかけられた赤い機械の侍はその足を止めた。

「なんだ娘、オレ様に用か?」
「はい、お強いお侍様とお見受け致します」
「侍?お前、オレ様のこと強い侍と言ったでござるか?」
「は、はい。実はお聞きしたい事がありまして」

何故か無駄に気を良くしたその男は、踏ん反り返って豪語した。

「おう!侍のオレ様が何でも答えてやるぜ!」
「その刀、何処の鍛冶で設えたものでしょうか?」

こちらの問いに男は自身の刀を見つめると、こちらを詮索するでもなく答えた。

「ん?おぉ、こりゃマサムネに打ってもらったんだ」
「マサムネ様?」






























赤い鎧の侍に聞かされた場所に赴いたは、まるでガラクタの寄せ集めのその場所を見上げていた。

(「・・・担がれたかな?」)

どう見ても、こんな所に好き好んで人が住むとは思えない。
出直すか、とが踵を返そうとした時だ。
ガラクタと思われた扉が開き、小さな老人と鉢合わせした。

「あん?研ぎの依頼かい?」
「あ・・・はい、お願いできますか?」
「そりゃあ、構わねえが・・・」

訝しむような老人の視線には布に巻かれた刀をきゅっと握った。

「何か?」
「いやお前さんのような娘にしちゃあ、随分な長刀だと思ってよ」
「・・・兄の預かり物でして、私が代わりに」
「おお、そりゃそうだな。
お前さんみたいな娘が刀振るっちゃ世も末ってもんだ」
「・・・そうですね」

曖昧に笑ったは、人が立ち入りそうもないその扉をくぐった。
そして刀を渡したは、しげしげと刀を見つめるマサムネに問う。

「いかがでしょう?」
「・・・そうだな、半刻もありゃあ仕上がる」
「ではお願いしても?」
「おぅ、任せておきな」
「ありがとうございます、では前金はこちらに」

それでは、とは立ち上がるとフードを被りその場を後にした。
それを見送ったマサムネは手にした長刀を再び目を移した。

(「預かり物・・・それにしちゃあ、人を斬ったばっかなんだがなぁ・・・」)

あの儚げな容貌に似つかわしくない、刀が語る事実に老刀鍛冶は小さく嘆息すると自身の仕事に取り掛かった。












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2016.5.3