翌朝、 は砦の街の広場にある魔導器ブラスティアの前でそれを見上げていた。
夜遅くにジュディスが迎えに来てくれたおかげで、きちんとしたベッドで休む事ができた。
泣き疲れていた は、ベッドに着くなり倒れ込むように眠りに就いたため、今思うとベッドの必要があったかは疑問だが・・・
















































































ーーNo.189 差した光明ーー





































































目が覚め身支度を整え終えた は、そのまま真新しい街中をゆっくりと散歩していた。
掠れていた声もひどい惨状になっていた目元の腫れもどうにか元に戻った。
鑑を見返す顔はいつもと変わらない自分自身を映していた。
だが、変わったモノもあった。
心の中にぽっかりと空いた穴、小さくなっても決して塞がる事はない一生の傷・・・
これは自分が決め選んだ道。

(「大丈夫・・・乗り越えられる」)

心の中で呟いた はそっと息を吐く。
散々泣いたせいか、溜ったものが洗い流されたような清々しい気分に包まれている。
残ったしこりは慣れるまではしょうがないとして、これ以上そんな思いを増やしたくはないと思った。
空を突くような魔導器ブラスティアを見上げながら、 は遠くにいるだろう戦友に思いを馳せた。

(「・・・デューク、私はこれから未来も生きてみたい。
兄さんやドンから受け取った願いの分も。
だから必ず貴方をーー」)
「およ?随分早いわねぇ、もう大丈夫なの?」

背後から響いた声に は思いを断ち切ると振り返った。

「おはよう、レイヴン。
隊長職に復帰かしら?見回り、ごくろーさまであります」

右手をかざして敬礼のポーズを向けられたレイヴンは、これ以上にないほど嫌そうに顔をしかめた。

「冗談じゃないわよ。こき使われるならまだギルドの方がましだわ」
「あはは〜、だよねぇ。
それと・・・昨日はありがと」

照れくさそうにはにかんだ に、レイヴンは両手を頭の後ろで組んだまま気軽に応じる。

「気にしなさんな。これからは頼ってよね」
「うーん。努力はーー」
ーーバターーーンッ!ーー
「いけるわ!!!」

の言葉は騒音と叫び声で遮られた。
一体何事か、と とレイヴンが音源に向く。
すると、扉が開かれた建物からリタが飛び出し、こちらに気付くと全速力でこちらに走り寄ってきた。

「精霊達と魔核コアを直結して、励起させるの!
その力を四精霊を介して明星壱号に収束する。それを星喰ほしはみにぶつけるの!」

興奮した様子でリタは一気に捲し立てる。
その後ろから遅れて追いかけて来たウィチルが反論するように声を上げる。

「ぼ、僕が見つけたんですよ!」

しかし、そんな声になど気にも留めないリタは話し続ける。

「そしてこの装置と各地の結界魔導器ブラスティアを同期させて、結界魔導器ブラスティアを中継して周囲の魔導器ブラスティアに干渉するのよ!」

嬉々とした表情でリタはさらに専門用語を口早に紡ぐが、それを理解できるのは魔導士の同業者くらいだろう。
それを証拠に、ウィチルと再び意見を交わし合い火がついたように話し込んでいる。
早朝から響いた騒音に、他の仲間が集まり出す。
が、リタの話を理解できる者はおらず、皆の頭上に疑問符が浮かぶ。

「???」
「・・・要するに魔核コアを精霊に変えることができるんだな?」

ざっくりと話をまとめたユーリに、理解してなかったのかとリタから呆れた視線が返る。

「さっきからそう言ってるじゃない」
「専門用語多過ぎて、分かる人は少ないと思うんだけどね」
「さすがです、リタ!」

苦笑した に、エステルは駆け寄って賞賛の声を上げる。
いつもならそれに照れた反応を示すリタだったが、興奮が勝っているためかすぐに思案顔となる。

「問題は時間がないことね、魔核コアのネットワーク作るのと、収束する用意は同時にやらないと」

腕を組んだリタの言葉に、ウィチルが口を開く。

「ネットワークの構築は僕がします。
アスピオからの避難者もいるし」
「学者達だけじゃ護衛が必要だろ。
魔物も星喰ほしはみも結構やばいぜ」

レイヴンの言葉に現れたフレンとソディアが応じた。

「そこは騎士団がやりましょう」
「命に代えても守り抜きます」
「じゃあ、足りない分はギルドが援護するわ。
技術者だっていない訳じゃないし」

カウフマンの言葉に、解決すべき問題全てに打開策が出た事で、カロルは表情を明るくした。

「なんとかなりそうだね!」

少年首領の言葉にリタは頷き、ユーリに向いた。

「後は精霊の力が確実に星喰ほしはみに届くようにできるだけ近付いて、明星壱号を起動させるだけよ」
「つまり、あそこだな」

ユーリが見上げた視線の先、そこには黒く不気味な塔が静かに浮かんでいた。
それに皆が視線を向けると、ジュディスとレイヴンはそれを言葉にした。

「・・・タルカロンの塔、ね」
「デュークの根城か」
「戦う事に、なるんでしょうか」

不安気に呟くエステルに、ユーリは厳しい表情を崩さず答える。

「どうだろうな。
けど、タルカロンをぶっ放される訳にもいかない」
「避けては通れないんだね。あそこに行くのは」
「そういうことだ」

カロルに頷いたユーリ。
と、話が一区切りついたことで が話を戻す。

「時間がないのは分かったけど、実際どれだけかかるの?
世界規模のネットワークと術式の構築、収束の用意、験算にも時間がいるだろうし・・・」
「のんびりしてらんないでしょ。
今日中に基幹部は構築するわ、あとは枝を張れば済むだけだから」

天才魔導士の言葉にユーリは頷いた。

「なら出発は明日だな。今日はしっかり休もうぜ」

ユーリの言葉に皆が頷く。
そして、魔導士はネットワークの構築、騎士団は護衛、それぞれの援護はギルドがと、それぞれの役割に向けて行動が開始された。
























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2008.10.15