ーー義理もないのに助けてやるんだから感謝しろーー
時刻は深夜を回った。
普通ならベッドでThe・スリープタイムとなっているところだ。
そう普通ならこんな時間は休んでいい時間のはずなのだ。
しかし・・・
「ウッザ・・・」
本音が吐き捨てられる。
そう、今は『普通』の状況じゃない。
場所も温かいベッドがある部屋ではなく、月が顔を見せる屋外。
は深々と溜め息を吐いた。
中東の境まで行って来た帰りで、早々に休むつもりだった矢先、いきなり大量のAKUMAのお出迎えがあった。
いつものような雑魚相手なら、馬車などで移動しながら片付けるのだが、今回は違った。
常軌を逸しているほどの数。
少しでも被害を抑えようと、狙いをこちらに向ける為、移動手段が徒歩になった。
全く、なんだってアジアに入った途端にこんな状況になっているんだ?
の周りにはイノセンス、弦月が放つ光と月光とで、積まれたAKUMAの残骸が浮かび上がる。
「あ"ー、ゴーレムも使い物にならないし・・・」
自分の周りを飛び回るゴーレムに
が指弾を放てば、羽の生えたそれはフラフラと離れていった。
この場所はAKUMAが多すぎて、通信障害が起こっているらしい。
おかげでアジア支部と連絡がつけられない状況だった。
「バクのアホぅめ、帰ったら最新のを作らせてやる」
何故かバクへの八つ当たりを口にする。
こんなに戦いっぱなしだと、捌け口の一つも欲しくなるのだ。
そして歩き出そうとした時、再び行く手にAKUMAが登場した。
「・・・まだいるの?本っ気で迷惑・・・」
嫌悪感を剥き出したところで、AKUMAは退きはしない。
は嘆息すると、空に向け番えるように弦を引く。
すると何もないそこに光の矢が現れた。
それを目一杯引き絞り、放つ。
光はAKUMAに当たることなく、天高く吸い込まれるように消えていった。
『バカな奴だ』
『どこを狙っている』
『当たらなきゃ意味ねぇよ、きゃははは!』
それを見ていたAKUMA達は口々に嘲笑う。
それを聞いていた
は、不敵に口角を上げた。
「当たらない?なら避けてみなさいよ」
『んん?』
『なんだぁ?』
『光が降ってーー』
直後、空から無数の光の矢が、AKUMAに降り注いだ。
「白羽の矢」
軽口を叩いたAKUMAが次々と灰となって消えていく。
それをざまぁみろ、とばかりに視線を送った
は、止まっていた歩みを再開する。
早く支部に帰ってシャワーを浴びたい。ついでに美味しいものを食べよう。
久しぶりに杏仁豆腐を自棄食いしてやろうか。
そう思って歩いていると、足元が暗くなった。
見上げれば、月が陰るように黒い靄が奇妙に動いていた。
靄の正体は言わずもがな。
「ったく、なんだってこう無駄に多いわけ・・・」
支部との連絡が絶たれているため、状況が分からない。
が、そのままにしておく事もできず
はその靄に向け弦月を構えた。
時間を要さず、それらは塵になる。
「はい、終わり。今度こそか〜えろ〜」
弦月で肩を叩いた
は歩き出す。
と、その時、光る何かを目の端に捕らえた気がした。
(「・・・なんだろ・・・」)
徐々にこちらに近づいてくるそれ。
結構な早さだ。
だんだんとそれの全貌が見えてくれば、見覚えのあるものだった。
「・・・は?なんでアレがあんなところに・・・」
が嫌いな奴が持っていたはずの金のゴーレム。
昔はもっと大きかったような気がしたが、恐らく間違いない。
向こうもこちらが分かっているのだろう。
まるで子どもが飛びつくように、ティムは
に近づいていくと・・・
ーーべちん、ボゴッ!ーー
に叩き落とされた。
「危ないわね、あんたを助けた訳じゃないわよ」
そう言った
は地面にめり込んだティムの尻尾を掴むと、ぞんざいに引き抜いた。
ーーズボッーー
「はぁあ、ったく。あんたなんか助けても、貸しの一つにもなりゃしないってのに」
迷惑そうに言い、ティムの尻尾を持った
はクルクルと回し遊ぶ。
「面倒なの拾ったわ、とことん厄日なんだから。
まぁ、支部の近くにあんなのがいちゃぁ、フォーも入れてくれないか・・・」
ぱっと手を放せば、目を回したティムはふらつきながら近くの樹にぶつかって落ちた。
それを見ていた
は仕方ない、とため息を吐くと再び空を見上げた。
そこには、また無数のAKUMAが群がりつつあった。
≫次の話にいく前に以下を読んだ方が流れが分かると思います!
Sub Side
Existence of the necessary〜first
contact『必然の存在、接触』
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2013.9.24