きっと、神が敷いた運命のイタズラだった。
そう、でなければ・・・私は・・・
























































































































Existence of the necessary〜first contact『必然の存在、接触』





































































































































森の中を歩く人影があった。
森と言ったが鬱蒼としていて、はっきり言って不気味だ。
好き好んでこんな所を歩く奴の気が知れないほどの森。
そんな森を一人歩いていたのは女性。
背中に揺れるウェーブのかかった長い暗紫の髪。
切れ長の目はやや釣り上がり、眉間には誰が見ても『超・不機嫌』と分かるシワが刻み込まれ、口元はキュッと引き結ばれていた。
普段とは違うのは、その装いだろう。
袖がなく丈が短い中国の民族着、下はかなりダボっとしたパンツ。腰には着るように義務付けられているはずの団服を巻いていた。
何故着てないかって?
暑いからだ。

「はぁ、もうマジ訳わかんないし・・・」

憎々し気に独り言が零れる。

「どうして馬車が街に入る手前で壊れて、この私が歩く羽目にならなくちゃいけないわけ?
ファインダーも別な足探しに行ったっきり帰って来ないし、森はキショイし、何より暑いし・・・」

まるで湧き水が如く、次から次へと文句が飛び出して来る。
そして、上がってくる怒りの矛先はこの場にいない人物までに及ぶ。

「バクの日頃の行いが悪いせいだ、盗撮ストカーめ、蕁麻疹野郎め、方向音痴め、坊ちゃん育ちめ」

もはや悪口になっていない。
ぶつぶつ言いながら、帰ったらその腹いせも上乗せしてやろうと、心に決めた
その時、後ろから馬車の音が響きそれが止まった。

「こんなところでレディがお一人でどうしました?」

機嫌が悪いってのに誰だ、この野郎・・・
ちらりと視線を向ければ、馬車からこちらを見つめる男がいた。
シルクハットからのぞく黒い波打つ髪、血色の良い肌、左目の下にある黒子、きっちりと着こまれているタキシード。
コンマ0.145秒で理解した。

(「うわぁ、貴族だし。面倒なのに声かけられた・・・」)

内心、毒づきながら、表面上は笑顔(営業用猫かぶりモード)を装って答えた。

「いえ、実は途中で馬車が壊れてしまって街まで徒歩で行くことになったんです」
「それはいけない。こんな森に女性一人は危険です。
よろしければ私の馬車で街までお送りしますが?」
(「いえ、私と一緒の方がかなり危険ですが?」)

とは一般人に言えない。

「でも、私のようなただの娘が貴族様の馬車にだなんて・・・」

外面はしゅん、と肩を落とす仕草をみせる。
が内心はというと、

(「堅っ苦しくて窒息しそうだ、御免こうむる」)

そんなの心情などお構いなしに、貴族の男は馬車から降り、こちらに手を差し出した。

「いえいえ、あなたの美しさに思わず馬車を止めてしまったのです。
街まで私の話し相手になっていただければ、声をかけた甲斐があったというものです」

その言葉にひくり、と頬が引き攣った。

(「キザっ!しかも貴族様特有の上から・・・ムカツク奴・・・」)

だが、向こうは全く手を引っ込める気配がない。
流石は俺様が多い種族だ。
しかし、このまま歩くのも面倒と思っていたのも事実で・・・
心で天秤が動く。

(「徒歩→夜に到着→最悪野宿・・・
ウザい貴族の相手→時間短縮→宿で待つベッドとシャワーとご飯・・・」)

時間にして0.26秒で思案は終わった。

「まぁ、よろしいんですか?実は心細かったところなので助かりますぅ」

あっさりと誘惑に負けた。
心にもないことを言ったは貴族に手を引かれ馬車へと乗り込んだ。
そして、馬車はすぐに動き出す。

「馬車が立ち往生とは災難でしたね」
「ええ。でも今はこうして無事に街に着きそうですから」

向かい合う男に、は適当に話を合わせる。

「これからどちらへ?」
「ローマに。父に会いに行くんです」
「それは家族思いなことですね」
「いえ、そんなことは。貴族様はご家族は健在ですか?」
「ええ、実はこうみえて兄弟が多いんですよ」
「まぁ、そうなんですね」

他愛ない話を続け、さほど時間を要せずに街に到着した。
流石は貴族の馬車。揺れも少なく、何より早い。
御者が馬を止めたことに貴族が気付くと、颯爽と外に出、乗り込んだ時のように手を差し出した。

「着いたようですね。さぁ、御手を」
「ありがとうございます」

その手を取って、地面に降り立つ。
辺りは黄昏に染まり、人々が帰路につく姿が目立っていた。

「本当に見ず知らずの私に親切にしていただいてありがとうございます。貴族様」
「いえ、こちらこそ。しがない貴族の私が役に立てて良かった。おかげで有意義な時間を過ごせました」
「おほほほ、お世辞でも嬉しいですわー」
(「面倒くさっ・・・」)

どうしてこう貴族というものは、社交辞令に社交辞令を重ねるような、小面倒臭い話し方しかしないんだ?
理解不能だ。
顔が引き攣らないようにしながら、は内心、ため息の連続だ。
と、貴族がこちらに向き直った。

「よろしければ、お名前を教えていただけませんか?」
「ジェシカ・キャンベルと。貴族様は?」
「私の名前を聞いてくださるとは光栄です」
(「本当に、良く回る口だな・・・・」)

適当な偽名を告げたに、貴族はシルクハットを取り、胸に手を当て、

「私はーー」

紳士の形式にのっとって、頭を下げ、その名を紡いだ。

「ティキ・ミックと申します。以後、お見知りおきを」































































はそれまでまとっていたものを脱ぎ捨て、鋭い視線で馬車が立ち去った方角を見ていた。

「しがない貴族・・・ねぇ」

口から零れる疑問。

「その割には、随分、隙がなさすぎたんだけど・・・」

腕を組んで考え込む。

「AKUMAって感じでもなかったし・・・」

視線を向ければ、もうあの馬車の姿は見えなかった。































































「ただの娘、ね・・・
それにしちゃぁ、只者の目じゃなかったがな・・・」

馬車に揺られ、頬杖をついた男の口から零れる疑問。

「エクソシストにしちゃ、団服着てなかったしな・・・」

すでに遠い後ろで別れた女のことを思い返す。
だが、一度会っただけでは、いくら考えても互いに答えなど出るわけもなく。
































































「ま、いっか」
「まぁ、いい」

とりあえず今は捨て置こう。

「私の前を塞ぐならーー」
「俺の邪魔するならーー」

そう、その時が来れば・・・

『消せばいいだけだ』

否が応でも、分かる事だろうだから。























































































Next
Back
2013.9.24