ーー思いがけない再会ーー








































「弦月、2nd liberation第2解放

厳かに紡がれた言の葉。
の手にあったイノセンスが形を変える。
身の丈を越えた弓、3本に分かれた弦。
ハープのように形を変えた弦に細い指をかけた は、それを弾いた。

浄化の波紋パージア・ウェーブ

涼やかな音色が辺りに響き渡る。
それはこちらに向かってきた烏合の衆のAKUMA達を撫でていった。
そして、

『な、なんだ!?』
『体が・・・』
『崩れ、てーー』

音に呼応して、数百はいたAKUMAが次々に消えていった。

「はぁ、私ってなんて仕事熱心なのかしら。自分を尊敬しちゃうわ」

あ〜終わった終わった、とばかりに は肩を回す。
そして、厄介ごとを連れて来やがった金のゴーレムを探す。
その時、

「へぇ、珍しい技使うじゃねぇの」

背後からの声に、動きを止めた。
戦場で後ろを取られるなんて、あの人間の風上にも置けないエセ聖職者以来だ。
何者だ?
だが、こちらの心情を他所に、声の主は世間話をするような気軽さで話しかけて来た。

「あれだけのAKUMAが全滅かよ。どうやったの?」
「高周波と同じ要領よ」
「・・・俺、学がねぇから分かんねぇんだけど?」

はゆっくりと振り返る。
闇に溶け込むような、きっちりと着込まれた黒いタキシード。
表情はシルクハットに隠れて分からないが、背格好と声から男だということは分かる。
二人の距離は約20Mほど。
十分にこちらの間合いだ。
だが、こんなAKUMAが群がる所に平然といるなど異常だ。

「貴方、AKUMAじゃないわね」
「あぁ、違う」
「そして人間でもない」

確信を持った の断言。
それに表情が分からないにも関わらず男が笑ったのが分かった。

「へぇ、分かる?」
「『ノア』・・・かしら?」

通信が切れるより前、中東を出発した時に支部から情報を聞いていた。
千年伯爵と家族となっている者達の存在、ノアの一族。
エクソシストを次々に襲い、すでに元帥の一人も命を落としたという。

ーー人間の、敵ーー

の言葉に、男はシルクハットの唾を片手で押さえながら、こちらに近づいて来た。
そして月光の下、隠されていた表情がさらされた。

「正解だ。『ジェシカ・キャンベル』嬢」
「!」

その姿は見覚えがあった。
以前、ひょんな縁から出会ったキザな貴族。
調査の為に紛れ込んだ貴族の舞踏会場で一曲の相手となった男。
確か、名前は・・・

「・・・人間に擬態する趣味があるなんてね、ティキ・ミック公?」

黒い波打つ髪、左目の下にある黒子。
だが、以前と決定的に違った。
人間とは一線を画す灰色の肌、そして額に刻まれている聖痕。

「ん?覚えてくれてたとは光栄だ」
「さっきまで忘れてたわ」
「あ、そう・・・」

の肩透かしに、ティキは勢いを削がれる。
そして気を取り直すように、タバコを懐から取り出すとそれに火を付けた。

「それにしても、あんたがエクソシストだったとはなぁ・・・」

煙を吐き出し呟けば、 は腰に片手を当て尊大に答えた。

「何か問題でも?」
「あぁ。着飾ればそなりに見えたからな。捕まえておこうと思ったんだがよ。
いくら探しても見つかんなくて苦労したわ」
「当たり前でしょ、そんな名前じゃないんだから」

まるで小馬鹿にするような言い草。
好戦的に対峙したまま臨戦態勢を崩さない に、ティキは口端を上げた。

「ははぁ〜、やっぱりそうか」

そして、タバコを口に咥えるとティキは に向き直る。

「じゃあ名乗れよ、エクソシスト」

ティキ・ミックの命令口調に、対峙した は不敵に笑った。

「殺せたら教えてやるわ」

一歩も退かない返答に、ティキは分かってないな、とばかりに頭を振った。

「おいおい、あんたにゃ分が悪いだろ?」
「そう言い切れる根拠は?」

の切り返しにティキは肩をすくめる。

「そのイノセンス。どう見ても対中長距離用っしょ?
俺には効かないと思うけど?」
「・・・・・・」

無駄口を叩く敵に、 の矢が襲いかかる。

ーーギーーーンッ!ーー

しかし、ティキはやすやすと光の矢を弾く。
手から生えるようなそれは、まるで蝶のようなもの。

「いい趣味してるわね」
「これは千年公の趣味でね。食人ゴーレム・ティーズだ」
「あっそ、興味ない」

適当に答えた
そして今度はティキが攻撃しようと、距離を詰める。
ティーズを振り上げてくるティキに、 は光が纏った弓で受け止める。
ギチギチと響く耳障りな音。

「無理すんなって、俺は超接近戦が得意なんだからよ。
お前にゃどう見ても不利っしょ?」

肌が触れそうなほど間近な距離で呟くティキ。
それを下から睨み上げた は、目が据わった。

「へぇ、そう・・・」
ーーバキッ!ーー
「っ!」

頬に走る熱に驚いたティキは飛び退く。
殴られた勢いで口にしていたタバコもどこかに飛んだようだ。
それに対して、拳を握っていた はにっこりと笑った。

「私、タバコ嫌いなの。それに誰が接近戦はできないって言ったのかしら?」
「・・・上等」

切れた唇の端の血を指で拭ったノアが、笑った。



































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2013.9.24