「身内の為に戦に立つたぁ、めでてぇ奴らだぜ!
何が侍だ、無能な猿共が!さっさとクタバレ!!」

後ろからの喚き声に片腕を引っ張りながら暴れるレンを引き摺り、カンベエは小さく嘆息した。

「いい加減よさぬか、どうしてそう突っ掛かる」
「腹が立ったんだよ。
何が悲しくてお家の為に命を賭けんだ、クソッタレ共!
「ではお主はどうして戦に立つ?」
「俺の為だ」

ゾクリと背筋が粟立った。
初めて会った時よりもさらに野生的な猛々しい双眸で射竦められる。

「俺の命は俺だけのもんだ。俺自身が俺の居場所を得る為に俺はここに立ってる」

何故だろう・・・必死に見えた。
いつものような自信に溢れた姿とは程遠い、まるでそれに縋るような・・・

「レン、何を恐れている」
「・・・何だと?」
「いつものお前らしくもないぞ」
「はっ!どこがだいつも通りだろ!俺はいつだって・・・っ!」
ーーガァンッ!ーー

手近の壁に拳を力の限り叩き付けたレンは、フーッと長く息を吐いた。

「・・・悪い」
「構わん」
「ああ・・・お前にも八つ当たりしてすまん」
「?」
「身内が家名の為にずっと犠牲を強いられてた・・・」

壁に背を預け、ズルズルと座り込んだレンは俯いたまま語る。

「畜生以下の扱いだ。
したくもない事を強制され、できなければ半殺しされるまで殴られた」
「・・・」
「別段、世の中にゃ珍しい事でもねぇが・・・
家名なんざ血の通わないお飾りより人の命がここまで軽いたぁ・・・笑える」

くっくっく、と喉を鳴らしてレンは笑う。
だがカンベエにはまるで泣いているように見えた。

「だから俺は戦に立った。
人の命が塵のように消えるこの場でも、己の力で得られるものがあるなら・・・」

レンは顔を上げた。
そこにはいつも通りの力強い、精悍な顔立ちの男が在った。

「この意志だけは血の通った俺自身だけのものだ」













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2016.5.3