ーー理由ーー






































































「なぜ行くんだ?」

耳に馴染む声に、は振り返る。
そこにはいつもの場所でいつものようにグラスを傾ける養父の姿があった。

、君には何の義理立てもないはずだ」
「うん。まぁね」

即座にそう返したに、レイリーの鋭い瞳が向く。

「なら、なぜマリンフォードに行く?」
「別に今回が初めてじゃないけど」
「状況が違うだろ?」

言い逃れを許さないレイリーに、も負けじとその瞳を見返す。

「今はまだいい。
だが、行けば間違いなく世間に顔が晒されることになる」
「そうだね」
「今までのように世界を勝手気儘に歩き回れなくなるぞ」

その覚悟はあるのか?
言葉にしなくとも、レイリーが言いたい事は分かった。
もしも、そうなれば、懸賞金狙いの輩も警戒しなければならない。
海軍など言わずもがな。
在籍していたことなど、全く勘案されないだろう。
きっと、これまでのように世界を見て回れなくなる。
でも、

「いいんだ、顔が知られる事ぐらい・・・」
「他人事のように言ってくれるな」
「だって・・・」

一度、口を閉じたは、間を置いて再び続きを口にする。

「・・・嫌、なんだ」
「嫌?」
「世界を見て、その人を知って、自分の世界になった一部を失うことが。
それに・・・」

ふと、口を噤んだ
数呼吸の後、再び続きを口にした。

「・・・嫌な、予感がする」
の直感は当たるからな・・・」

脇腹の古傷を押さえるに、レイリーの瞳が細められる。

「白ひげは昔からの顔馴染みだ。
共に同じ時代を生きてきた男を失うのは、私としても悲しい事だ」

だが、とレイリーはグラスを置く。

「この歳で、娘を失うのはもっとつらい・・・」
「っ・・・」

は言葉に詰まる。
普段、親子のようなやり取りは少ない。
血の繋がりはないのだから当然と言われてしまえばそうだが。
しかし、何処の誰とも分からない自分をここまで育ててくれた。
繋がりはなくとも、絆がある。
それに、自分の夢の為にこの人は私を強くしてくれた。
恩義や感謝は言葉ぐらいじゃ言い尽くせない。

「足を踏み入れようとしているのは戦争だ。
分かっているな?」
「もちろん。
命の保障なんてされないってことも、分かってる。
でも・・・」

ぐっと腹に力を込めたは口を開いた。

「友達の助けしたいっていう気持ち、折りたくない。
それに、見届けたい。
私のやったことの結末を」

レイリーを真っすぐ見つめたがはっきりと言う。

「レイリーは、娘の私に友を捨てても生きろなんて言わないでしょ?」

しばらくして、小さな嘆息が響く。

「全く、素直じゃないのは誰に似たんだろうな・・・」
「?」

首を傾げるに、レイリーはグラスの残りを煽った。

ーーコツッーー

静寂に滲んだ音はあっという間に消える。
そして、レイリーはいつものような笑顔を向けた。

「行ってきなさい。無茶だけはしないようにな」
「・・・ありがとう」

深々と頭を下げ、は扉を押し開ける。
シャボンディー諸島は、今日も晴れやかだ。
しばらく、入り口に立ち尽くしていただが、くるりと振り返り、

「行ってきます、お父さん!」

カウンターにいるレイリーが見たのは、まるで光に溶けるような笑顔だった。


















































>余談
「あそこに行くのは、それだけじゃないのだろう?」(含笑)
「・・・私、何も言ってないけど?」
「いやいや、恋する女性はいつの世も強いものだ」
「!?」
「孫の顔も早く見たいものだな」
「っ!レイリー///!!!」





2013.7.15


Back