新世界、ここは「偉大なる航路」後半の海。
常識外れな事象がさらに輪をかけ、世界で最も航海が困難な海。
海流・気候・そして磁気までもが狂う。
そんな海を支配しているのが海賊の頂上を制している四皇。
世界のバランスの一翼を担う存在。
そして、この新世界のとある春島に、は降り立っていた。













































































ーー絶大な信頼感ーー















































































「ご無沙汰してます、シャンクスさん」
「おぉ、か!随分久しぶりだなぁ」

四皇の一人、赤髪海賊団大頭。
トレードマークの燃えるような赤い髪、左目に走る3本の傷。
海賊と名乗るには、陽気で気さくな男は、少年のようににっと笑った。

「新世界を拠点にしているんですから、それも仕方ないことですよ。
そうひょいひょい来れません」

苦笑するは身につけていたマントを脱ぐ。
の意見に赤髪は特に気に留めるでもなく話を続けた。

「ま、久しぶりなんだ。宴にするぞ、野郎ども!!
『おぉっーーー!!』






























































あっという間に宴会となった。
変わらないなぁと、思いながら渡されたジョッキを傾ける。
1年ほど一緒にいた8年前と同じ。
変わったのは見た目に現れた年月分の時間の流れと世界を見てきた経験、傷跡ぐらいか。

「見ない間に、一段といい女になったな。
男でもできーー」
「シャンクスさん」

の遮る声にシャンクスは視線を寄越す。
喧騒の中、2人と周囲とは距離がある。
おそらく副船長のベックマンの配慮だろう。
何も話をしていないと言うのに、あの人の洞察力には全く敵わない。
心の中で感謝を述べながら、はジョッキから手を離した

「もう、耳にしていますよね?」

声が震えないように努める。
四皇である彼のこと。
同じ四皇の白ひげの動向を知らないはずがない。

「白ヒゲ海賊団4番隊隊長サッチが死んだか・・・」

静かに告げられた声に、表情が固くなった。
まだ受け止めきれていない自分に僅かに拳を握る。
だが、さすがだと言えた。
しっかりと把握しているシャンクスには頷く。

「ええ。犯人はーー」
「黒ひげ、だろう?」

先を読んだシャンクするの言葉に、は口を噤む。
そして、その男の視線がの脇腹に移る。

「!」
「お前も大けがしたらしいな?」
「ええ、まぁ・・・」
「あいつには注意しろとあれだけ言っただろう」

呆れと心配が入り交じる表情に、は脇腹を押さえた。

「私はシャンクスさんほど強くはないですから・・・」

弱々しく笑ったそれを見た赤髪は、かけるべき言葉が咄嗟に見つからない。
はそれを許さないように、シャンクスの空いたジョッキに酒を注ぐ。

「あいつは面倒見のいい、気のいい奴だったからな。
うちに引き抜きたかったんだが・・・」

ジョッキの液面がたぷんと揺れる。
惜しむシャンクスの言葉を聞きながら、意を決したようには口を開く。

「・・・今」
「ん?」

神妙な面持ちのに、シャンクスは酒から視線を移す。

「白ひげ海賊団の2番隊隊長が、黒ひげ討伐の為に船を飛び出しました」

放たれた言葉に、シャンクスは首を捻る。

「2番隊隊長?」
「2年前、スーパールーキーだった、ポートガス・D・エースさんです。
ご存知ですよね?」

疑問でなく、確認を投げかければそれは首肯で返される。

「あぁ、その男なら顔見知りだ」
「会えたんですか?」
「あぁ。俺の友達の兄貴でな、挨拶に来たことがある」

そうでしたか、と頷き顔の
そうか、エースは無事に会えたんだ。
と、ジョッキの中を空にしたシャンクスは、ようやく自分から口を開いた。

「で?本当の話はなんだ?
それなりの話だろ?いくらお前だとしても、ここまで来るには覚悟がいる」
「・・・・・・」

シャンクスの言葉に、はどう言ったものかと言葉を探す。

「ちなみに、どうやって来た?」
「そればっかりは企業秘密です」

にやりと笑うシャンクスに、は即座に切り返す。
わざわざ緊張を解いてくれた事に感謝し、は一つ嘆息をし話しだした。

「確かに、そんな世間話をしたくて来たんじゃありません」

コトッと酒瓶を置いたは、身体ごとシャンクスに向き直った。

「四皇である貴方の見解を聞かせてください」
「俺はご意見番じゃないんだがな・・・」

無精髭を右手で撫でながら、シャンクスが呟く。
しかし、は続けた。

「今、この世界の均衡を崩しかねない事態の前触れが、今かもしれない・・・」

滔々と語るにシャンクスはしっかりと耳を傾ける。

「エースさんが何事もなくケジメをつけられれば良し。
でも、そうならなければ・・・」
「なるほど、俺は保険ってやつか?」

悪戯っぽくそうシャンクスが言えば、はまさか、と笑う。

「四皇である貴方を、一端の小娘がそんな身の程を弁えないこと、思ってもいませんよ」

分かってるよ、とシャンクスは陽気に笑う。
どこまで本気か分からないこの人は、なかなか掴めない。

「貴方は海賊、私がここで殺されても文句はありません。
でも、自由を一番望んでるのはシャンクスさんだから・・・
だからーー」

その先の言葉、本当にこの人に言っていいものか。
でも、本当の最悪の事態になって頼りになるのは自分の伝手ではこの男しかいない。
断われればそれまで、そう腹を括る。
そして、シャンクスを真っすぐ見上げた。

「だから、もしもの時。
心の隅に・・・ほんの少しで構いません。
留め置いていただけませんか?」

決意を讃えた瞳をシャンクスに真っすぐに向ける
その耳に、ふっと息を吐き出す声を聞いた。
次いで、頭上を撫で回す重さがのしかかる。

「うわっ!」
「だぁっはっはっは!お前、本当に素直じゃない奴だな!」

髪型をぐしゃぐしゃに乱された
大笑いするシャンクスを前に、先ほど真剣に語っていた自分がバカみたいだ。

「・・・何するんですか」
「ただ一言ーー」

遮ったシャンクスの声には言葉を詰めた。

「ただ一言だろう。
エースを止めてくれと言ゃあいいじゃねぇか」
「シャンクスさんにその義理はないじゃないですか」

そう言い返してやれば、シャンクスが纏う空気が変わる。
それはまさしく頂点に立つ王者の者で。

「四皇と呼んだのはお前だろ?」

不敵に笑ったシャンクスに、は目を見開く。
そして、俯き小さくはいと返事を返す。

「自由に海賊ができなくなるなら、俺は動く」

貴方のその存在、背中の大きさがあるから、きっと無意識に甘えてしまう。























































>余談
「あ、そういえばカイドウさんに動きがありましたよ?」
「あ?なんだって?」
「大方、白ひげさんの首でも取ろうとしてるだと思いますけど・・・」
「そりゃあ、ご苦労なこった。
それより宴にするぞ!」






2013.7.15


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