「まぁ、確かに『なんでも』とは言ったけどさ・・・」
今更、自分の言ったことに後悔の念が渦巻く。
こんなのあり?
ーー就任祝い?ーー
白ひげ海賊団でずっと欠番だった2番隊隊長が決まった。
わずか18歳。
だが、その実力は折り紙付き。
そばかすにテンガロハットを被った男。
ポートガス・D・エースだ。
ひょんな縁から、白ひげ海賊団に入る前から知り合いだった。
折角だからそのお祝いに欲しいものをプレゼントする。
そう言ったのが事の次第の始まりだった。
「マルコさ〜ん、止めてください」
「エースがそれでいいっつてんだ。
それに自分で言い出したことじゃねえかよぃ」
「う・・・」
的を得ているだけに、反論できない。
この人はだめだ、ともう一人へと視線が向く。
いつもうるさいほど構ってくる彼なら、少しは望みが持てる。
「サッチさん、兄として止めてくださいよ〜」
「おぅよ、!」
「サッチさん・・・」
やはり、ちょっとだけ期待して良かった。
これで余興は終わーー
「信じて送り出すのが兄の務めだぜ☆」
「・・・・・・」
期待した私がバカだった。
どうしよう、味方が消えた。
完全なるアウェイ。
「はぁ、どうして就任祝いが力試しになるんですか・・・」
そんなの聞いたことない。
普通なら、もっとこう・・・
剣とか装飾品とかだろうに。
「、用意できたら言えよな」
オレはいつでもいいぜ、なんてこの場の主役はやる気満々だ。
まぁ、だから自分は戦う準備をしなければならない事態に陥っている訳なんだが・・・
「はぁ・・・」
本日、何度目か分からないくらいの溜息を吐く。
幸せ?そんなの勝手に逃げて行け!
相手は悪魔の実の能力者。
しかも自然系ときた。
一応、武装色の覇気は使えるから問題ないのだが・・・
「なんか、面倒くなってきた・・・」
「本音がだだ漏れだぞ、妹よ」
だってぇ〜、とは口を尖らせる。
さっきから文句ばかりで全然準備は進んでない。
まぁ、準備といっても準備運動くらいしかないのだが。
普段、纏っているマントは脱ぎ、愛剣の雷切は腕試しの為使わないと決めていた。
軽装な出で立ちのは、座っている樽の上で足をバタつかせた。
「だって、相手は火ですよ?
火傷でもしたらどうするんですか!」
「大丈夫だって」
「もう、そうやって他人事に言うんですから・・・」
お気楽主義め、だったら代われよ!
と思うがマルコに言われた手前、その文句は心の中で呟くに留める。
「エースはそこまで派手にやらねぇよ」
「言い切る根拠はなんです?」
据わった目を向ければ、サッチはキョロキョロと辺りを見回す。
誰の目を気にしてるんだ?
そう思っていると、声を潜めたサッチが囁いた。
「お前を傷物にしたら、マルコが黙っちゃいねぇだろうが」
「・・・ま、まぁ///」
それを言われるとこそばゆい。
それなりな関係でやることもやっている訳だが・・・
言葉に表されるはまだ慣れない。
でもそうだ。
これは一応、勝負なんだ。
よし、とは樽から下りた。
そして、酒を飲んでいるマルコに近付き、トントンと肩を叩いた。
「マルコさん」
「なんだ、まだ準備してねぇのかよぃ」
「今から行きますよぉ。
それより、なんですけどーー」
は膝を折って屈むと、マルコに耳打ちした。
「ね?どうですか?」
「・・・・・・」
「折角なら頑張り甲斐のある勝負じゃないと燃えないじゃないですか」
にっこり、とはマルコに笑いかける。
返されたのは普段のような無愛想なものでなく。
仕方ない、とばかりな我儘を許容しているもので。
「わかったよぃ」
「やった!」
小さくガッツポーズしたは、先ほどの渋った様相はどこへやら。
軽やかにエースの前に降り立った。
そして、めいいっぱい、身体を伸ばすとスッと構えを取った。
「エースさん、事情が変わりました」
「あ?」
「この勝負、勝たせていただきます!」
始まったエースとの腕試し。
得物なし、相手の背中を地面に付かせるか、参ったと言わせた方の勝ちという単純な勝負。
「悪ぃが、手加減しねぇぜ?」
「どうぞどうぞ、手加減できなくしてあげますから」
「へぇ・・・言うじゃねぇか、よっ!」
ーーバシッ!ーー
「あは、攻撃の手が分かりやす過ぎです」
「〜〜〜っ!んのっ!!」
単純に見ると、エースの人気が高かった。
だが、の力を知っている者もいて賭け事はいい感じの50:50に盛り上がっていた。
「やっぱ、肉弾戦じゃエースのがたいが有利だな」
酒を手にしながら、サッチは舞台となっている甲板の中央を見て言う。
身長差10cm以上は大きい。
それに男と女ではやはり勝負見えてるか・・・
周囲の歓声に惑わされることなく、サッチは勝負の成り行きを見守る。
目の前では、エースに押されることなくは対峙している。
力強く繰り出された拳を、蹴りをいなし、受け流す。
エースの方も能力を使わずに勝負をしようとしているらしい。
先ほどから使う素振りを見せず、己の肉体だけで勝負をしていた。
「どっちが勝つと思うよ、マルコ?」
「さぁねぃ・・・」
隣に座る、長い付き合いの相棒にサッチが問えば当人は、さも興味薄な返答。
1番隊隊長を務め戦闘では常に第一線にその身を置き、敵を薙ぎ払い、味方の窮地を救う。
腕試しとはいえ、この勝敗を読むのは彼には造作もないことだろう。
それに、エースも強いとはいえ相手もただの女ではない。
偉大なる航路を制したただ一人の男、海賊王ゴールド・ロジャー。
その海賊王の右腕、冥王レイリーに育てられた娘。
それが彼女だ。
実の所、誰も彼女の本気を見た事がない。
もしかしてもしかすると、その片鱗が見れるかもしれない。
「避けて、ばっかじゃ、勝負に、なんねぇ、だろ!」
「捕まえてご覧なさ〜い」
「ってめっ!」
挑発され、エースの拳が大振りになった。
見切ったは、一気に懐に入る。
「しまーー」
ーーベチンッ!ーー
「でっ!」
だが、予測していた攻撃ではなかった。
額を押さえるエースにトンッ、とその肩を踏み台には背後を陣取る。
そのまますぐに攻撃されないよう背中合わせになった。
そして、
「背中がお留守ですよ」
「・・・おちょくってんのか・・・」
「あら、デコピンだって歴とした攻撃手段です」
がそう言い返す。
周りからはやんややんやと声援が上がる。
それに惑わされることなく、は直ぐに体勢を低くする。
直後、頭上をエースの蹴りが通過した。
甲板に手を付いたは、そこを支点にエースの軸足を蹴りつけ、体勢を崩す。
間を置かず、軽やかに後方回転でエースから距離を取った。
「ぎゃはははっ!エースの奴、だっせぇの!」
「・・・遊び過ぎだよぃ」
後を追うように、再びエースが拳を繰り出す。
先ほどよりも勢いのあるそれ。
勝負はまだまだこれからだ。
と、
「お、エースがを捕まえたぞ」
の上着を掴んだエース。
その勢いのまま地面に押し倒そうした。
これだけの体格差では、勝負は見えたか。
「・・・決まったねぃ」
チラリとその様子を見たマルコは呟き、その口角を上げた。
何がだ、とサッチが問おうとした。
その時、
ーードダァンッ!ーー
叩きつけられた音が一つ。
あっけない勝負だったか、と思ったが・・・
「な、に!」
サッチは眼前の光景に目を見開いた。
このまま押し倒して、勝利が確定したものと思っていたエース。
だが甲板に背中を付けて、投げ飛ばされたのはそのエース本人。
当人も何が起こったのか分かっていないのか、ポカンと惚けていた。
「遠いワノ国ではーー」
パンパンと手を叩いたはそのまま話し出す。
「相手の力を利用することで、自分より体格差のある相手でも倒すことが可能なんです」
そう言ったは、呆然としているエースに手を差し出した。
「力だけで攻めるのが勝負ではありませんよ?」
ま、全部レイリーの受け売りなんですけどね、とにこやかに答えた。
>余談
「勝者、!」
「ぃやった!」
「なぁっ!!お、おい、!もう一回だ!」
「なぁ、マルコ・・・」
「なんだよぃ」
「愛の力って、すげぇな」
「・・・・・・」
2013.7.15
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