「脇が甘い」
「って!」
容赦ない一太刀は、的確に隙を突き、あっさりと体制が崩れた。
ーー貫く信念ーー
レイリーに修行を頼み、とある無人島に居座ってもうすぐ1ヶ月が経とうとしている。
「ふむ、この辺で休憩にするか」
「う、うん・・・ありがとう、ござい・・・ました」
息も絶え絶えに返事をしたの頭をポンと撫で、レイリーはその場を後にした。
それを見送り、はその場に大の字に広がった。
「剣は・・・やっぱり、苦手・・・はぁ、はぁ・・・」
修行するにあたってレイリーから言われたのは2つ。
経験不足と咄嗟の判断力の強化だ。
経験不足を補う為、レイリーには実践に近い形をお願いした。
その為、が今手にしているのは雷切だ。
レイリーからは本気でかかってこい、と言われたのでそうしているのだが、剣相手だと1本どころか、擦り傷さえも取れていない。
代わりに、こちらは峰打ちの傷ばかりが出来上がり、動く度に鈍い痛みに苛まれている。
(「うー・・・壁は高い、か・・・」)
流石は海賊王の右腕と呼ばれた男。
年齢的なバイタリティは、少しはこちらに分があると思っていた。
が、その予想は初日の30分で打ち砕かれた。
それはもう木っ端微塵に・・・
二回り近くも年齢差があるのに、ここまで実力差を見せつけられると泣けてくる。
実は悪魔の実の能力で年齢詐称してるんじゃないか?
と勘ぐってしまったのは致し方ないと思う。
まぁ、その能力者は既に居る為、そんな事はあり得ないのだが・・・
「」
レイリーの呼びかけに、は起き上がった。
そんな彼女に向かって何かが投げられる。
危なげなく受け取ったは手元に視線を落とした。
「それくらいなら食べられるだろう?」
「ありがとう、レイリー」
激しい鍛錬の直後は、何も口にしたくない。
だが、この後のスケジュールを考えると、何か胃に入れた方がいいのだ。
そう頭では分かっていても、身体はなかなか受け付けてくれない。
それを知って、レイリーは果物を選んでくれたんだろう。
気遣いのこもった果物をは齧る。
口内に酸味と仄かな甘みが広がる。
瑞々しいそれに、は思わず表情が緩んだ。
「甘かったな・・・」
レイリーの言葉には首を傾げる。
「ん?果物のこと?」
「お前のことさ」
キョトンとするに、レイリーは続けた。
「すぐに音を上げると思っていた」
正直なところな、とレイリーは苦笑する。
手早く食べ終えたは、立ち上がると伸び上がった。
「そりゃそうよ」
これまで僅かながら色んな世界を見てきた。
美しい景色を見た。
目を背けたくなる事実を知った。
懸命に暮らす人と話した。
命を奪う者を討ち倒した。
海の偉大さと平等さに触れた。
世界を毒している物を感じた。
今までたくさんの出会いがあった。
それによって抱けた感情があった。
そして、約束を交わした。
もう一度、会って話をする、と。
「だって、世界を見るって夢を追う為だから」
「そうか・・・」
レイリーの呟きを背中で聞きながら、足元の剣を拾ったは構えた。
「続き、よろしくお願いします!」
2013.7.15
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