(「流石は世界会議・・・集まっている面子も錚々たるメンバーだわ」)
警備兵として紛れこんだは目の前を通り過ぎる面々を鍔の下からチラリと見ながら、心内で呟いていた。
ーー国を担う器ーー
聖地マリージョア。
入ってみれば、やはり豪華絢爛との言葉がふさわしい建物、装飾。
どれだけの金をつぎ込めばここまでできるのか。
想像もしたくない。
自分の力量を計るべく、世界会議に紛れ込んでみた。
ま、4年に一度しか開かれないことで、そちらの好奇心も強かったのだが・・・
警備兵となるにも、海軍本部以上に手間取った。
何しろ建物の屋外では海軍本部左官クラスが目を光らせていたのだ。
その目をかいくぐるのは並大抵のことではない。
本当に骨が折れた・・・
が、それはここまでの経験の賜物。
突破できたからこそ、こうして中にいるのだ。
中に入ってしまえば後は楽だった。
探ってみれば、将官クラスが数人いる程度。
しっかりと覇気を巡らしておけば、かち合う心配はない。
そんな訳で心置きなく内部探索をしていただった。
が、角を曲がった時だ。
ーードンッ!ーー
「きゃあ!」
「っと」
随分と高い声だ。
大きな気配ばかりを警戒していたことと、まさか子供が居るとは思わずぶつかってしまった。
視線を落とせば、案の定。少女が尻餅を付いていた。
「お怪我はありませんか?」
「だい、じょぶ・・・」
すぐに膝を追って、怪我の具合を確かめる。
飛び込んできたのは青空色の髪、着飾った装い、そして赤く腫れた頬。
その容姿は記憶にあった。
そして、幼子は喋らずとも事情をダイレクトに教えてくれる。
(「・・・どこの国にも、上に立つに値しない奴はいるんだな・・・」)
少女が今のような状態になった経緯がおおよそ感じ取れた。
そして、少女がどの様な振る舞いをしたかは、今の状態を見れば簡単に推測できる。
こんな年端もいかない少女が、ここまで上に立つ者としての自覚を持っているとは・・・
「申し訳ありません。
私の受け止め方が悪かったようですね」
「ち、ちが・・・」
フルフルと頭を振る少女。
その両目からは必死に涙を流すまいと堪えていた。
あまりに健気な振る舞いに、は懐の内ポケットを探る。
「よろしければ、こちらをどうぞ」
「?」
少女の目の前には手の上に乗せられた紺碧色のハンカチ。
涙を浮かべながらも不思議そうな顔になる少女を見て、はふわりと笑った。
「こちらの布は、王族にふさわしい者が触れば、今必要としているものが出てくる不思議な布でございます」
さぁどうぞ、と促され少女はおずおずと布をめくった。
すると、
「うわぁ!」
ハンカチの下から現れたのは、クリーム色の小さな花。
感激したように目をキラキラさせる少女に、はどんどん花を出していく。
簡単な手品なのだが、どうやらお気に召してくれたようだ。
「こちらの花には痛みを和らげる効果があります。
柱の影にお控えの方。どうぞこちらをお使いくださいませ」
そうが声を上げれば、柱の影から一人の男が現れた。
クルクルとカールした特徴的な髪型、付き人らしいその装い。
警戒心をこちらに見せるその男は、に鋭い視線を向けた。
「どうして、気付いた?」
「仮にも、聖地を守っているのです。これくらいは」
尤もらしいことをは言う。
本当は見聞色の覇気で、先ほどから居た事には気付いていたわけだが、一向に出てくる気配を見せなかったので放っておいたのだ。
は少女に花を渡すと、紺碧色のハンカチを付き人の男へと差し出す。
が、男はそれを見つめたまま受け取ろうとしない。
は困ったように頬を掻いた。
「心配なさらずとも、普通のハンカチです。私物であるのは恐縮ですが」
「・・・感謝する」
ようやく渡し終えると、は再び膝を折り、少女と視線を合わせた。
「貴女のような方が王族にいて良かった。気高いその資質が、健やかに育つ事を祈っております。
アラバスタ王国、ネフェルタリ・ビビ王女殿下」
では、手当の手配をして参りますのでこれで、とは立ち上がりその場を辞した。
その後姿を見ていた少女だったが、背後から頬にハンカチが当てられたことで、それを受け取った。
布の感触に痛みが走ったが、花の香りと共に徐々に痛みが和らいでいくのが分かった。
「ねえ、イガラム・・・」
「どうしました、ビビ様?」
遠ざかって行く背中を見つめながら、背後に控える男に少女は問うた。
「わたし、なまえおしえてないのに、どうしてあの人にはわかったのかな?」
「・・・それも単に、この地を守る兵士だから、ということなのでしょう」
その言葉にふーん、と少女は呟く。
「きれいな、あおい目をしていたなぁ〜」
それはまさに、渡されたハンカチのような色だった。
そんな少女を見下ろしながら、男も警備兵の立ち去って行った方向を見つめた。
(「世界会議に初参加のビビ様の顔を知っているとは。
コブラ国王の名前の他は人数しか連絡していなかったというのに・・・」)
不審感が拭えなかったが、仮にもここは聖地マリージョア。
不貞の輩が忍び込むなど、自殺行為に等しい。
「いかんな、考え過ぎか」
「どうしたの、イガラム?」
不思議そうに見上げる少女に、何でもありません、と答えると男は一休みできる場所へと少女を促すのだった。
2013.7.15
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