揺れる船の上。
消毒液の臭いが鼻を突く。
助け出してくれたその人と初めて言葉を交わすことができたのは、意識を取り戻した更に4日後だった。
ーー自覚してしまった想いーー
起き上がる事はできるようになったのだが、ルイーナからの厳命でそれはできない。
その為、話をするにもまだ自分は横になったままだ。
「あの時は助けていただいて、ありがとうございました」
入り口近くに佇むその人に声をかける。
壁に背中を預け、腕を組んだままのお決まりの姿。
表情はいつもと変わらない。
「今はともかく、体を休めることだけ考えてろぃ」
素っ気なく紡がれた言葉に、は笑顔と共に片手をひらひらとさせて応じる。
それを見た男は、納得したのかこちらに背を向け部屋を出ていった。
そして部屋には静寂が訪れる。
「・・・・・・あぁ、くそ・・・」
悪態が口を突く。認識してしまった。
もうこれで最期だと思ったその時、思い浮かんだ顔。
親であるレイリーでなはなく。
諌めてくれたシャンクスではなく。
陽気に騒いだサッチではなく。
小娘を歓迎してくれた白ひげではなく。
「・・・なんで・・・」
鼻の奥がツンとする。
誰もいないと分かっていても、は目元を手で覆った。
あの時、記憶を掠めたのは、青。
海や空を連想できるが、決してそれらとは同じではなく。
その人が纏っている色。
「・・・っ・・・」
自覚してしまった。
自分が抱いていた想いがなんと呼ばれるものか。
普段は素っ気ないくせに。
普段は手助けしないくせに。
普段はそんな優しい声じゃないくせに。
(「・・・それなのに・・・」)
末端から凍えるような寒さの中、差し込んだ光。
『!しっかりしろぃ!』
『・・・ルコ・・・ど、して・・・』
『今は黙ってろぃ!』
引き寄せられた逞しい腕、背負われた広い背中、安心できた声。
薄れゆく意識の中、目尻を伝った滴。
その時だ。
あぁ、そうか。
すとんと心に収まった。
会いたいと、もう一度だけと強烈に求めた。
その人が青い炎を纏って目の前に立っていた光景は、夢だと思った。
自分の都合のいい願いが幻覚を見せたんだと、そう思っていたのに。
それは現実だった。
はその時の記憶を払うように、全身の痛みから逃れるように、長くゆっくりと息を吐いた。
「・・・これからどんな顔、すりゃいいの・・・」
ぽつりとこぼれた言葉が静寂に消えた。
2013.5.2
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