「どうだ?」
「まだ治療中だよぃ」

主語がない問いにも、古くからの付き合いであるこいつはちゃんと汲み取ってそう答えた。







































































ーー遠い夜明けーー









































































時刻は早朝から朝に差し掛かろうとしていた。
昨夜の騒がしさとは打って変わって、今は波の音が聞き取れるほど静かだ。
だが、扉を隔てた向こう側では未だに複数の動く音が響いている。
サッチは扉から壁に寄りかかる男に視線を移した。
マルコの装いはいつもと違う。
理由は至極簡単。昨日、負傷したを担いだからだ。
持ってみれば異常な重量感があったシャツ。
血糊がべったりとシミを作り、膠状になったそれは、とてもじゃないが着れる状態には戻らないほどだ。
それを証明するかのように、を見た時は本当に生きているのか疑ったぐらいだ。

「ナース達の腕を信じるしかねえな」
「・・・・・・」

そう言ってやれば無反応。
思い出されるのは昨夜。血塗れのを背負って戻って来たマルコの姿。
あのがあれほどの傷を負ったのには驚いた。
だがそれ以上に驚きだったのが、マルコの反応だった。
いつも冷静沈着、感情をあまり表にしない奴の珍しく焦燥した顔を見た。
相当心配してるだろうに、表に出す事をなかなかしない不器用な男。

「そろそろ、飯でも食いに行くか?」

太陽はすでに海の上。
船員もちらほらと姿を見せ始める時間だ。
何より、昨日からずっと医務室の前に張り付いていた。
待つ事しかできないのは歯痒いが、今の自分達には待つ事しかできない。
だが、気分転換も必要だろうとそう提案した。

「そうだな・・・」

そう返したマルコだが、その場から動こうとしない。
その気持ちを素直に口にすればいいのに、と思う。
表に出さないマルコ。
笑顔で隠す
ある意味、似た者同士ではあるのだ。

(「今回ので少しは自覚すりゃあいいがな・・・」)

二人共、自分にとって大切だからこそ思う。
その為にはまずが命を取り留める必要がある。

(「死ぬんじゃねぇぞ、・・・」)

こちらの夜は明けても扉の向こうの夜明けは、まだ遠い。













































2013.7.15

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