店に着いたはいいが、そこに店主の姿はなかった。
店員を捕まえて話を聞けば、今日はもう帰ったという。
まるで示し合わせたようなタイミングに不安は膨らむばかりだった。









































































ーー襲いかかるpassion 4ーー









































































店主の家を脅し丁重に聞き出し、踏み入れば部屋は散乱としたものだった。

「勘のいい奴だな・・・」

一足遅れたか、と足元の家具を蹴飛ばし悪態を零すサッチ。
と、

ーーバサッ!ーー
「サッチ」
「やられたぜ、マルコ。奴はトンズラした後だ」
「裏路地に大荷物抱えた奴がいるよぃ」
「マジか!無駄足じゃなかったって訳だ」

指を鳴らしたサッチはすぐに踵を返す。
そしてマルコの指示で路地を進むと、それらしい当人のがこちらにやってくるところだった。

「どっかに旅行かい、マスター」
「なんだお前は!?」

立ち塞がったサッチに、酒場の店主は目に見えて狼狽した。

「こんな夜中にゃ船は出ねぇよぃ」
「っ!」

さらに追い討ちをかけるように、背後からマルコが呟く。
前後を挟まれた店主は怯えたように荷物を引き寄せた。

「ちーとばっか、聞きたいことがあんだけどよ?」
「わ、私は何も知らない!」
「それを判断すんのは俺らだよぃ」

即座にマルコは言い返す。
ぐっと言葉に詰まった店主にサッチは一歩ずつ歩み寄る。

「夕方、カウンターに座った女がいたろ?そいつに何を教えた?」
「カ、カウンターに座る女なんて・・・いちいち覚えーー」
ーーダンッ!ーー
「ひっ!」

行く手を塞ぐように、サッチは壁に足を付く。
縮こまる店主に、獲物を捕食するようなサッチの眼光が鋭く光る。

「マスターよ、海賊相手にすんならどうすりゃ利口か分かってんだろ?」

まるで蛇に睨まれた蛙のように微動だにしない店主。
だがまだ口を割らないことに、マルコが一石を投じた。

「相手を選ぶべきだったよぃ。その女は白ひげ海賊団の客だったんだからよぃ」
「し、白ひげ!?」

その言葉に顔面蒼白となった店主。
衝撃のあまり、へたり込み冷や汗を浮かべる。

「覚えてねぇなら仕方ねぇよな。そん時はこの島から街が消えるだけだ」

さぁどうする?と言葉にする事なくサッチは返答を求める。

「あいつはどこだ?」

サッチは腰に据えた柄を握って見せる。
ガチガチと歯の根が噛み合わないほど震える店主は、途切れながらも言葉を紡ぎ出した。


































































「北東の廃墟っつってもよ、はそのどこにいんだ?」

北東への道を併走しながら、サッチはマルコに問うた。
恐怖に迫られた店主は、ペラペラと喋ってくれた。



 『わ、私は・・・頼まれた、だけだ。
 酒場に、お、女が来たら北東の廃墟の場所を伝えろと。
 金になるから乗っただけなんだ!そ、それだけだ!あとは何も知らない!!』



最後には喚き散らした為、ささやかな仕返しも兼ねて昏倒させた。
殺さなかっただけ有難いと思え。

「行ってみるしかねぇよぃ」
「地図で見る限りじゃ、相当な広さだぞ?他の奴らも呼ぶか?」

船に控える仲間の事を言えば、マルコは暫し黙した。

「いや、状況が分からねぇ。いざとなったら俺が呼びに行くよぃ」
「だな。それにしてもよ・・・」

サッチの含みのある声に、チラリと横目で視線を返す。

「・・・なんだよぃ?」
「マルコも十分心配性だぜ。帰って来ないから迎えに行くって、過保護な父親かよ」

はガキじゃねぇんだぜ?とサッチはからかうように言う。
すると、マルコは眉間の皺を海溝の如く深くした。

「・・・あいつが今迄、約束を破ったことがあったかよぃ」
「ま、ねぇな。何しろ、俺の自慢の妹だからな」

ふふん、と走りながら胸を張る芸当をやってのけるサッチ。
それにマルコは冷やかな視線を送った。

「無駄口叩くヒマあったら、無駄に暑苦しい兄貴の特殊能力であいつを見つけろよぃ」
「んな能力のねぇっての。
つーか無駄に暑苦しいとはなんだ!俺の美しい兄妹愛を舐めんなよ〜!!

目的地を前に、サッチの叫びが夜空に木霊した。













































2013.7.15

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