「マルコ隊長、街に行かねぇのか?」
「そういうお前はどうなんだよぃ、ティーチ」
「俺ぁ、今から行くとこよ」
ーー襲いかかるpassion 3ーー
時間は少しばかり遡る。
昼食を済ませ、最近手付かずだった書類の整理を終えたマルコ。
相変わらず事務仕事をサボるサッチに灸を据えに行こうとした時に声をかけられた。
この船では自分と同じくらい古株の男。
2番隊隊員、マーシャル・D・ティーチ。
実力は突出しているでもなく、だが埋れている訳でもなく。
中の上といった所だ。
平の戦闘員としての地位にいる男だが、マルコにはそれが真の実力とは思えずにいる。
古株故に一時は2番隊隊長に、との話が出たが大きな成果がなかった為に見送られたのは昔のこと。
だから、今でも2番隊隊長は実力が見合う者がいない為欠番だ。
だが隊はある為、マルコが代理を務め雑務一般をやっている。
最近はが手伝うおかげで、かなり楽になっていたが。
「街で聞いた噂なんだがよ、この島じゃ大事なもんが消えるらしいぜ」
ティーチの話に、マルコは呆れたように返した。
「くだらねぇ、どうせ眉唾もんだろぃ」
「ぜははははっ!違ぇねえ。
俺達ゃ海賊、奪い返しゃいい話だ」
突き出たビールっ腹を揺らして笑うティーチ。
だがそれをすぐに引っ込めると、底の見えない笑みを浮かべた。
「だがよーー」
これだ。
マルコが真の実力とは思えないと感じる、この男が時折見せるこの目。
「大事なもんは手元に置かねぇとな。届かなくなっちまったらそれで終いだぜ」
ティーチの言葉にマルコの心が僅かに漣立った。
だがこの時は、その理由を予測しようもない。
「お前に言われるまでもねぇよぃ」
「そりゃそうだ!ぜはははははっ!」
また大声で笑ったティーチは歩き出す。
それを暫く見ていたマルコだが、へ回す書類とサッチの件を思い出し視線を引き剥がすのだった。
夜も更けた。
だが、はまだ戻ってきていない。
夜には戻り、書類の事で話があると言っていた。
ここまでの航海で、律儀にもその類いの約束が違えられたことはなかった。
何かあったのか?
「サッチ、の奴はどこにいったんだよぃ」
「なんだ戻ってないのか?」
甲板で呼び止めたサッチの言葉に眉根を寄せる。
確か、2人で街に下りて行ったのを目の端で捉えていたが、それは本当だったようだ。
「実は酒場で別れたから、俺もどこに行ったかは知らねぇぞ」
何か用なのか?とサッチが問うが、マルコは別の事を考えていた。
昼過ぎのティーチとの会話が蘇る。
『街で聞いた噂なんだがよ、この島じゃ大事なもんが消えるらしいぜ』
『大事なもんは手元に置かねぇとな。届かなくなっちまったらそれで終いだぜ』
一抹の不安が過る。
「サッチ、その酒場はどこだよぃ」
「街の北 "sacrifice" って酒場だけど・・・って、マルコ!
迎えなら俺も付き合うぞ!」
明る気に叫ぶサッチの声を聞きながら、マルコは湧き上がる焦燥を打ち消しながら足を早めた。
2013.7.15
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