目の前に床がある。
どういうことだ?
どうして私は後ろ手に縛られている?
それに・・・
(「うご、けない・・・」)
ロープで縛られているからではない。
身体全体に力が入らない。
私は直前までの記憶を必死に手繰り寄せた。
ーー襲いかかるpassion 2ーー
確か、老人の後について行ったのだ。
そして、案内されたのががらんどうな部屋。嵌められたかと思い、すぐに引き返そうとした。
が、そこからの記憶はない。
「薬、か・・・」
恐らく、揮発性の何かを吸い込んでしまったのだろう。
口にするものなら、いつも警戒は怠らない。
「悪いな、姉ちゃん。これも金の為だ」
響いた声に視線を上げれば、複数の男達。一見して堅気ではない、荒くれ者だと分かる。
やはり情報はガセネタだったか。
「誰の・・・差し金?」
「答える義理はねえな」
「最初から、嵌められてたってわけ・・・」
「あ?何言ってやがる」
リーダーらしい男の言葉に、は眉根を寄せた。
「酒場の店主と道案内まで用意してるなんて、用意周到だって言ってるんですよ」
「はははっ!頭が回り過ぎるのも考えもんだな」
「・・・何が可笑しいんです?」
険を込めて言ってやれば、リーダーの格の男はついと視線を移した。
「道案内ってのは、アレの事か?」
「!」
部屋の隅、ガラクタが積み上がってる一角。
そこにまるでゴミが捨てられたように、老人だったモノがあった。
執拗に嬲られたのが分かるほど、ボロボロな状態だ。
「金寄越せって五月蠅くてよ。ま、俺らの取り分も増えて一石二鳥だな」
「・・・外道・・・」
吐き捨てるに、男の蹴りが腹にめり込む。
ズザザザッと、床の上を転がった。
硝子の破片でもあったのか、頬に熱いものが伝う。
は頭を上げる前に、男の持つ鞘で顎を持ち上げられた。
「・・・っ・・・」
「殺すように言われてんだがな・・・」
男のはそう言って口元が下卑に歪んだ。
「動けないならちょうどいい。お楽しみといこうじゃねえか」
周りからもせせら笑う声。
背筋が凍った。
このような状況で、何が待っているかなんて容易に想像がつく。
何しろ自分はそちら側に近いところで仕事をしているのだ。
そうこうしているうちに、男の一人がこちらに近づいてきた。
片手にはナイフが光る。
(「ったく、もう・・・」)
は四肢に意識を巡らせた。
蹴り飛ばされたことと頬の痛みで、僅かだが身体に力が戻る。
後ろ手を握っては開きを繰り返し、感覚を確かめる。
「つまんねぇな、悲鳴の一つも上げねぇと燃えねぇだろ?」
「お生憎様・・・」
「強情な女だ」
「なら、これならどうよ?」
ナイフを持った男が目の前に腰を下ろす。
そして、刃先は躊躇なく胸元のシャツを布切れへと変えた。
ーービリッ!ーー
「っ!」
「ヒュ〜、いい眺めじゃねぇか」
囃し立てる声に嫌悪感が募る。
震えるように顔を俯かせたは、小さく呟いた。
「・・・や・・・」
「お、命乞いでもする気になーー」
「気安く触んな!」
ーーゴスッ!ーー
誰がそんなものするか。
自由にならないながらも、渾身の力で男の脇腹を蹴り飛ばす。
僅かでも覇気が纏った蹴りは、男を盛大に吹っ飛ばした。
はすぐに跳ね起き、落ちたナイフを拾って拘束を解く。
「ぐっ・・・この女!」
「調子に乗るんじゃねえ!」
男達が騒ぎ出す。
囲まれたら終わりだ、このまま戦うには分が悪過ぎる。
は体勢を立て直し、フラつきながらも部屋の出口に走った。
何の薬なのか、思考も阻まれる。
(「ともかく、ここから・・・!」)
瞬間、背筋が粟立った。
覇気を纏う時間は足りない。無意識に身体を反らせた。
が、
ーードッ!ーー
背後から衝撃を受けたと思った直後、膝の力が抜けた。
「・・・え?」
誰の声だ?
頭の片隅で、ヤバイかも、と冷静に判断する自分がいた。
なんだろう・・・
地面が近づいて・・・
ーードサッーー
「悪いが、生きて帰さねえ」
男の声がひどく遠くで聞こえた。
2013.7.15
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