「サッチさ〜ん、キッチン貸してもらえますか?」
「おう、いいぜ!でも何すんだ?」
「えへへへ、ヒミツですv」
ーーSt.Valentin's Dayーー
春島が近いせいか、モビー・ディック号は穏やかな陽気に包まれていた。
見張り番となっていた一番隊はこの陽気の中、気怠げに各々が仕事をこなす。
と、空の青とは違う炎が甲板に降り立った。
「まったく、仕事はまじめにやれよぃ」
偵察から戻ったマルコは、呆れたように隊員に言う。
それに不満気な声が返るが、仕方なさそうに仕事に戻っていく。
それを横目に見ながら、そろそろ昼時かと食堂に向かう。
一歩一歩近づいてくると、甘い香りがした。
「おう、マルコじゃねえか」
敵はいたか?というサッチに、平和なもんだよぃと返す。
ドアを開けたすぐそこには、いつもなら調理場に立っているはずの4番隊隊長のリーゼント。
そして、普段は見慣れない姿が代わりに立っていた事で、マルコは口を開いた。
「・・・なんであそこにがいるんだよぃ」
「さあな。貸して欲しいって言われて貸したんだ。誰かへのプレゼントかねえ」
にやりと笑ったサッチにマルコは興味なく切り捨てた。
「食えるもんだといいーー」
ーーストーーン!ーー
マルコは口を開いたまま続きを口にできなかった。
ちょうど入ってきた入口のドアには、刃渡りの長い包丁が揺れていた。
そして食堂内は水を打ったように静かになった。
「ごめんなさ〜い、つい手が滑っちゃいました」
「「・・・・・・」」
てへ、と笑っているだが、雰囲気は冗談ではない。
彼女の発言に室内は爆笑の渦に飲まれる。
その間を縫ってサッチはマルコに掴み掛かった。
(「謝れ!ともかく謝れ!死ぬほど謝れ!!」)
(「俺が何をしったってんだよぃ!」)
声を潜めての応酬だが、ばっちりとその声は当人に聞こえていた。
「マルコさん、意地悪だから嫌いです」
「ぎゃははは!マルコ隊長が振られた!」
「サッチさんは好きです」
「おう!オレは
のこと愛してるぜ!」
サッチ隊長ずりぃ!という外野の声に、兄貴の愛は何よりも強いと言ってのけるサッチ。
その騒ぎの中心のは先ほどと違う柔らかい微笑を浮かべる。
目の前でのやり取りに、眉間の皺を深くしたマルコ。
そして、ドアに刺さったままの包丁を抜くと自分の作業に戻っているに近づく。
周囲いからは冷やかしの声が上がるが無視した。
「あら、私に何か用ですか、パインさん」
ぴきっと米神が動くが、その原因主は素知らぬ顔だ。
出会った当初のその呼び方は、不本意すぎてしまい思わず名乗ってしまった経緯がある。
彼女がそれを出すときは、多少なりとも怒っている証拠だ。
「・・・悪かったよぃ」
「別にー、謝られても困りまーす」
(「こいつ・・・」)
視線も向けられないまま棒読みの返事が返される。
見張りから帰って、なぜここまで疲れなければならないんだ。
の手元では一生懸命に黒い物体が刻まれている。
その甘すぎる匂いに、マルコはさらに不機嫌になった。
ーーダンッ!ーー
荒々しく置かれたそれに、ようやくロイヤルブルーの瞳がこちらを向いた。
「・・・邪魔したよぃ」
「あ・・・」
去っていく姿に、躊躇いがちの声がかかるがすでにドアから出て行ってしまった。
その光景に食堂内は再び笑い声に満たされる。
しかし、ばつが悪そうな表情を浮かべるを見たサッチは腰を上げた。
そしてそれに気付いたは何でもないように笑う。
「ちょっと、悪ふざけがすぎちゃいましたね・・・」
「ま、気にすんな。不器用な男のマルコが悪い」
明るく言ったサッチには小首を傾げた。
「不器用?」
「ほれほれ、手が止まってるぞ。今日中に仕上げるんだろ?」
指摘を受けたはそうだったと、自身の疑問はひとまず置き刻んだチョコレートをボールに移した。
「マルコさん」
「なんだよぃ」
「コーヒー持ってきました〜」
「・・・ありがとうよぃ」
「それと、これは日頃の感謝の気持ちです」
「?」
「今日は2月14日ですから」
ーー素直じゃない私から不器用な貴方へーー
>余談
「おう、!ケーキ美味かったぜ!」
「キッチン貸してくださって、ありがとうございました」
「オヤジにも渡したのか?」
「ええ。お世話になってる方には一通り」
「そうか、じゃ、本命は誰だ?」
「ふふ、本命はヒミツですよv」
2013.4.21
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