激しい雨音が屋根を叩く。
どうにか荷物を雨に晒さないようにするが、そのお陰でこちらはずぶ濡れだ。

「思いっきり降られちゃいましたね」
「通り雨だ、すぐに止むよぃ」

そうですね〜、と言ったはタイミングの悪さに深々とため息をついた。










































































ーー雨宿りーー










































































偉大なる航路、とある夏島にモビー・ディック号は着港していた。
久々の上陸に、やるべき仕事はたくさんある。
その中で、は買い出しを任された。
が、あまりの品数の多さに荷物持ちを一人連れて行く事にした。

「それがなんで俺なんだよぃ・・・」
「だって、マルコさん飛べるじゃないですか」
「俺の能力は、そんな事の為にあるんじゃねぇよぃ」
「固い事は言いっこなしです。
早く終わらせないと、陸での楽しみはお預けですよ〜」

とのやり取りがかれこれ2時間前。
そして、買い物を済ませたものの、雨に降られてしまい、冒頭へと戻る。
通り雨だと言ったマルコだが、夏島故か、なかなか雨足は弱まらない。

「もう、濡れるのを覚悟で船に行きませんか?」
「ならこれだけの大荷物、どうするんだよぃ」
「ですよね・・・」

雨に濡れては、荷物を移動する事もできず、二人は途方に暮れていた。
ちなみに、二人はとうの昔に濡れ鼠だ。
はブーツに入った水が気持ち悪いと、裸足で木箱の上で三角座り。
マルコは腕を組んだまま壁に背中を預けている。
やる事もないは、ちらりと隣に視線を移す。
身長差から見上げる形の場所にマルコが立っていた。
雨によって身体に張り付いたシャツが見せるがっしりとした二の腕、筋肉質な胸板。
毛先からうなじを伝う雫。
醸し出される異性の雰囲気に、無意識に息を呑んだ。

(「うわぁ、同じ人なのに、太陽の下で見るのと雰囲気が違う・・・」)

いつもは意識しないのに、つい魅入ってしまう。
と、突然、マルコがこちらに視線を投げた。

「!」
「どうしたんだよぃ?」
「べ、別に!何でも、ないです・・・」

慌てて視線を前に戻す。心なしか、顔が熱い。
どうかバレていませんように、と必死に願う。

(「もう、早く止んでよ・・・」)

紛らわすように引っ付くシャツの胸元をパタパタと動かしながら、は毒づく。
しかし、そんな心境を笑うかのように空から降る雨は勢いを弱めなかった。






































































不本意な荷物持ちに付き合わされた挙句、通り雨で全身ずぶ濡れとなって早1時間。
雨は一行に止む気配をみせない。

(「とんだ厄日だよぃ・・・」)

運が悪いことを恨めしく思う。
そして全身に張り付くシャツの気持ち悪さから少しでも逃れようと、僅かに視線を動かした。
すると、ちょうどこちらを見ていたようなと視線がぶつかる。

「どうしたんだよぃ?」
「べ、別に!何でも、ないです・・・」

慌てて視線を逸らしたを訝しげに見つめる。
顔が僅かに赤い気がするのは気のせいだろうか?
と、その手がシャツの胸元をパタパタと動かした事によって、あられもない光景が目に飛び込んで来た。

(「勘弁してくれよぃ・・・」)

ただでさえ、水気を持った服が身体に張り付いているのだ。
普段は気にも留めていなかったが、今、隣に居るのが女だということを強烈に自覚する。
白いうなじ。
なだらかな肩。
女と分かる膨らみ。
細い腰。
そして、雨気に混じる甘い匂い。

(「何を考えてんだよぃ。一回りも下のコイツに・・・」)

熱が上がる自分の身体を恨めしく思う。
悪態の一つも吐きたいところだが、こいつの隣では必ず問われるだろう。
雑念を振り払うかのように、濡れた髪を掻き上げる。
そして、まだ止む気配のない空を見上げた。

(「早く止めよぃ・・・」)




































































二人分の願いも虚しく、まだ、雨は止まない。














































2013.7.15

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