動物系、悪魔の実の能力者でも、空を飛べる者は少ない。
まして、幻獣種ともなればさらに希少な訳で・・・
身近に知り合えた人がまさにそのタイプであるなら、いろんな疑問が湧いてくる。
「どんな感じがするんだろう・・・」
人から動物へと変わる感じは?
違和感はないのか?
触感、嗅覚、味覚は人と違うのだろうか?
動物になったからこその弱点は?
やっぱり興味は尽きない。
でも一番に知りたいのは・・・
「どんな世界が見えるんだろう・・・」
ーーきっと私の想像もつかないーー
冬島に近づいているせいか、いつもよりも遠くまで海を見通せる。
かじかむ手に息を吹きかけ、こすり合わせ、視線を再び周囲に向ける。
見張り台から海を見れば、甲板で見るのとはまた違う姿をみせる。
空もぐっと近くなる。
でも、翼を持って悠々と青い海原を滑空するとなればまた違うのだろう。
他人と感覚を共有することはできない。
それは分かっている。
空を飛んでいる幻想的な青を見上げ、は呟いた。
「いいなぁ、きっとーー」
ーーきっと私の想像もつかない景色が見えるんだろうなーー
天上を見上げていただが、こちら近付いてくる青に気付いた。
それはあっという間に見張り台に降り立ち、瞬く間に鳥から人へと姿を変える。
「見回りはお終いですか?」
1番隊隊長である男に尋ねると、ああ、と短く返事が返ってきた。
「結構、早かったですね。
もうちょっとかかるものだと思ってましたけど・・・」
内心、もう暫くだけ眺めていたかったのだが、それは言葉にしない。
すると、マルコは呆れた様子で言った。
「下から間抜け面に見上げられちゃあ、見回りだってやりずれぇよぃ」
「間抜け面とは失礼ですね。私のせいだってですか?」
憤慨したは立ち上がり、持っていたスキットルを投げつける。
それを危なげなくその手に収めたマルコは手中とこちらを交互に見る。
「サッチさんから差し入れです。ありがたく受け取ってください」
「・・・なんだってこんな所にいたんだよぃ。渡すんなら、食堂でも良かっただろうが」
マルコの言葉には振り返る。
そこには先ほどの不機嫌な顔のままだ。
「・・・景色をーー」
「景色?」
「視れるかなって思ったんですよ・・・」
そう、船の一番高い見張り台なら、空を飛んでいる景色に近い世界が見えるかと思ったから。
空を飛べる者だけが占めている景色を見たくて、思いを馳せていた。
だのに、帰ってきて早々、気分をぶち壊す言葉を頂戴したのだ。
「何を言ってんだよぃ?」
当然の疑問が返されるが、は、ふん、と見張り台の手摺に立った。
「独り占めする人にはヒミツです」
そう言い捨て、は甲板へと飛び降りた。
2013.7.15
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