一緒に行くというウィルを宥め聞かせるのには苦労した。
そして宿屋を後にしたサッチは、一人街に繰り出す。
探し人が何処にいるか分からないが、どういう所にいるかは見当がついていた。






































































ーー衝突 5ーー







































































「いよっ、!」
「サッチさん・・・」

こんな深夜にも関わらず、明るくカジュアルなバーにその姿を見つけた。
片手を挙げて声をかけるが、いつものような明るさはない。

「頭は冷えたか?」

その言葉に、の眉根がピクリと動いた。
事情を知ってる風のそれ。
あのタイミングでやって来たサッチが全容を知っている訳がない。
それに同じ立場のあの人がわざわざ事情を話すとも思えない。
と、すれば・・・

「・・・ウィルですね。後で締め上げてやります
「うんうん、ひとまず八つ当たりはやめような」

隣に腰を落ち着けたサッチに、はふい、と視線を逸らす。
あからさまなそれに、思わず苦笑が浮かぶ。
普段は酒を飲まない彼女には珍しく、目の前に置かれていたロックグラスには琥珀色が揺れていた。

「どうだ、少し落ち着いてみてよ」
「サッチさんにはお見通しですか・・・」
「何しろ、お前のカッチョいい兄ちゃんだからな!」

軽口で返すが、無反応。
カラカラと手元のグラスを揺らしていただったが、暫くしてグラスが置かれた。

「今回は、私に非がありました。全面的に・・・」
「まぁ、日が悪かったよな」
「例えそうだとしても、自制できなかったのは私の落ち度です」

即座に言い返した
これで話は終わりだ、とばかりながだったが、サッチは退かなかった。

「おいおい、お前はウィルの為を思って動いたんだろ?」
「マルコさんの言い分は間違ってませんよ」
「いーや、お前とウィルは一緒だったから単独じゃねぇ」
「言葉遊びがしたいなら他を当たってください」

そう言って、グラスを傾ける。
頑なな態度のに、サッチは疲れたようにため息を零した。

「お前ねぇ・・・どうして、悪者になろうとすんだ?」
「規律を乱したなら、相応の罰を受けるのは当然でしょう?」
「大袈裟だな〜、未遂だろ?」
「そんな事では他の船員に示しがつかないですよ、4番隊隊長殿」

暖簾に腕押しな押し問答、そして名前すら呼ぼうとしない他人行儀さ。
分かったら早く消えてくれ、とばかりな空気をは纏う。

(「あん時よりもヒデェなぁ、こりゃ・・・」)

思い出されるのは、先月。
夜更けになっても部屋の灯りが消えなかった事が気になり、そのドアを叩いたのがきっかけだった。
あの時も普段より苛立っていたが、今回はその比にならない。


「まだ何か?」

サッチの呼びかけに、迷惑気何な視線が向けられる。
相手の神経を逆撫でするようなそれ。
わざわざ他人を遠ざけているような振る舞いをするをサッチは放っておけなかった。

「最後にお前に聞きたいことがある。
YesかNoで答えろよ?」
「内容にもよると思いますが?」
「答えられねぇなら、このまま居座るぞ?」
「・・・・・・分かりました」

かなりの間が空いて、これで帰って貰えるなら、とは一つ息を吐き出す。
の返答にサッチは仰々しく頷いた。

「よし。ウィルは俺らの仲間になる予定だった、そうだな?」
「ええ」
「そして、お前はゴロツキからウィルを守った、そうだな?」
「・・・はい」
「俺達、白ひげ海賊団の掟は『仲間の死を許さず、家族を何よりも大切に想っている』ことは分かってるな?」
「はい」
「なら、今回のの行動はそれだろ?」
「!」

サッチの指摘に、の表情が初めて変わった。
パクパクと魚のように口を開閉していた
そして、

「卑怯、ですよ・・・」
「は?」
「誘導尋問じゃないですか。私が言ってるのはーー」
は、将来の俺ら白ひげ海賊団の仲間を思っての行動だった、違うのか?」

遮られそう言われてしまえば、頷くしかない。
が、頷きたくない。
しかし、ここで沈黙してしまえば肯定しているも同然で・・・
憮然としたの様子に、サッチはようやく表情を緩めた。

「ま、マルコの奴も心配してたんだぜ?お前の事情も知らなかったのもあるしな」
「サッチさんに喋ってしまったのも、実は不本意なんですよね」

ぽつりと吐かれた毒に、サッチは衝撃を受けたように身を引いた。

「ひど!仮にもお兄ちゃんに向かって」
「・・・まぁ、本音は置いておいて」
「本音!?そこは冗談って言う所よ!!」
「・・・ふふ・・・」

サッチの騒がしい様子に、は薄く笑う。
それを見たサッチはホッとし、頭にポンポンと手を置いた。

「ま、意地の張り合いも大概にしとけって、な?」
「 ・・・・・・」

そう言ってやれば、再びの顔が曇る。
どうやらこのまま黙って処罰を受けるつもりだったことがありありと見て取れ、サッチは呆れた。

「 事情も話さないままなのはどうかと思うぞ」
「別に私は構いませんけど?」
「お前が良くても、ウィルが気不味い思いしたままだろ?」

そう切り返され、は苦虫を噛み潰した顔になった。
それを見たサッチは、矢継ぎ早に続ける。

「いたいけな少年にそんな思いさせんのか?」
「人に知られて、あまり気分の良いものじゃないんですが・・・」
「今回の落ち度は自分にあるっつったろ?」
「うっ・・・」

そこを突くか・・・、とばかりな
やっと光明が見え、サッチはとどめとばかりにの肩に手を置いた。

「ここはお前が大人になるところだぞ、妹よ」
「・・・・・・・・・・はぁ」












































2013.7.15

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