離れるなと言われていた。
なのに、離れてしまった自分が心底嫌になる。
「おら、さっさとその酒寄越せや」
「ガキにゃ、宝の持ち腐れだ」
「ダ、ダメっす!これだけは!!」
ーー衝突 3ーー
気付けば自分は一人となっていた。
周囲を見回しても、後ろにいたはずのあの姿はない。
血の気が下がる。
そして、追い討ちをかけるようにならず者に囲まれてしまった。
(「姉さん・・・!」)
恐怖で声が出ない。
でも、両手で抱えた瓶を渡したくなかった。だが、どうやれば逃げ切れるか分からない。
「だんまりか、このガキ?」
「構うこたぁねぇ、もらうもんもらーー」
「その子から離れてもらえます?」
高く響いた声にハッとした。
ならず者の男共は、背後に立つ人影に振り返った。
そこにはマントに身を包んだ、の姿があった。
「誰だ、てめぇ?」
「その子は将来、白ひげ海賊団で隊長になる子なんです。汚い手で触らないでください」
「な、なんだとこの女!」
一人が殴りかかろうとするが、それを難なく避け、は男共の頭上を身軽に飛び越えた。
そして、ウィルの視界にその姿がいっぱいになる。
「姉さん・・・」
「ウィル、よく頑張ったわ。もう少し辛抱してね」
頭を撫でられた安心感で、涙腺か緩む。
縋るように広がるマントをしっかりと掴めば、潮の匂いがした。
「見た所、この辺を縄張りにしてるゴロツキといったところでしょうか。
そんな輩でも、白ひげ海賊団に手を出せば、どうなるかご存知ですよね?」
ウィルを背後に隠し、男共と対峙したは脅す響きを込め言い放つ。
それを聞いた男共は、目に見えて浮き足立った。
「いい気になるなよ、小娘」
「あ、兄貴。今、白ひげって言いやしたぜ」
「ヤ、ヤバいんじゃ・・・?」
「んなこと、ハッタリに決まってんだろ。
てめぇらが本当にそうなら、何処かに白ひげのマークがあるはずだろ?」
見せてみろ、という男の言葉には何も言い返さない。
それはそうだ。
は白ひげ海賊団に厄介になってるだけ。
もちろん、仲間たるそのマークを背負ってはいない。
ウィルはこれからその仲間になるのだから、あるはずもない。
「てめぇでできねぇなら、俺達が脱がせて確かめてやるぜ」
「そりゃあいい!」
下卑た笑い声が木霊する。
はすっ、と腰を下ろしマントの中のモノに手を伸ばした。
その時、
「何やってんだよぃ」
新たな声に皆が振り返る。
そこには、ウィルが尊敬して止まない男が腕を組んで立っていた。
そして、その胸に刻まれている、彼の誇りも。
「こ、こいつ!」
「白ひげ海賊団、1番隊隊長の不死鳥マルコ!」
「ほ、本物っ!?」
「ちっ!ズラかるぞ、てめぇら!」
男共はすごすごと帰っていく。
ウィルはようやく肩の力を抜くが、酒瓶を落としそうになったことで、慌てて抱え直した。
「マルコさん、助かりました」
ウィルの頭上では、とマルコのやり取りが交わされる。
そして、ありがとうございます、とが続けようとした時、
「単独行動はするなとあれほど言ったはずたよぃ」
咎めるマルコの声にウィルは体を固くした。
「あ、それは・・・」
おれが頼んだから、と言おうとしたウィルを遮るようには前に出た。
「別に問題がなかったんだから、いいじゃないですか」
普段の穏やかさがなりを潜め、突っかかるようにがそう言い返す。
まるでケンカを売っているようなそれに、マルコの眉根が跳ねた。
「問題なかった?あんな雑魚に囲まれた奴が言えるセリフかよぃ」
「別にやられてませんけど?」
「こんなガキ連れで何かあったらどう責任取るつもりだよぃ」
「この子だけでも守りましたよ」
愛想なく言い返し、ふいと視線を外す。
だが、マルコは追求は止まらない。
「弱ぇくせに、偉そうな事言うなよぃ」
マルコの言葉を受けたは目元をさらに険しいものにする。
交差する二人の視線。
「ち、ちがうんっす!マルコ隊長。おれが、姉さんに頼んで・・・」
ただ、この人は守ってくれようとしただけ。
止められたのに、自分が勝手な行動をしたんだ。
でも、こんなことが知られたら自分はあの船に居られなくなるんじゃないか、そんな不安からその先を言えない。
「ウィル、お前もわがまま言ってんじゃねぇよぃ」
マルコの言葉に再びウィルの体が強張る。
瞬間、は苛立ったように声を荒げた。
「っ!ウィルは悪くありませんよ!問題行動があったのは私じゃないですか。
子供に言い掛かりしないでください、大人気ない」
「なんだと・・・」
のその言葉についにマルコの苛立ちが表立った。
だが、ももう収まりがつかないのかさらに言い畳む。
「どんな処罰も受けますよ、これで文句はないですよね?
1番隊隊長さん?」
「ね、姉さん・・・」
何とか止めようと声を上げるが、ウィルの声は二人に届かない。
「舐めた態度を取るのもいい加減にしろぃ」
「私は間違った行動も言動もしていませんよ。ウィル、宿屋に戻るわよ」
「で、でも・・・」
もう自分ではどうして良いのか分からない。
そんな内側を見透かしたように、の手が肩に置かれた。
「貴方は自分の事を考えてればいいのよ」
視線を合わせて言われた言葉に、ウィルは頷くしかない。
立ち上がったはマルコに背を向けて歩き出す。
「おい、話はまだ終わってーー」
ーーパンッ!ーー
を止めようとしたマルコの手が勢いよく振り払われる。
そして、振り返ったのは敵意が宿ったロイヤルブルーの瞳。
「私が責任を取るって言ってるじゃないですか。それで終わりですよ」
「ね・・・姉さん?」
冷たい声。
誰だ、この人は?
それほどまでに、いつもと様子が違った。
二人の雰囲気はますます悪くなるばかり。
険悪を通り越して殺気立っている。
ウィルはどうしていいか分からず、おろおろしていたそんな時、
「おっ!マルコ、こんな所にいたのかぁ〜」
探したぜ全く、と4番隊隊長のサッチが現れる。
そして、事情を聞く前に穏やかでない空気を察したようだ。
「っと、どうかしたのか?」
睨み合う2人にサッチは問うが、それに答えることなくは歩き出してしまった。
また離れて先程の二の舞になるまいと、ウィルもその後を追う。
その時、
「、責任は取ってもらうよぃ」
「それで良いって言ったじゃないですか。
追放だろうが、船を下りろだろうが好きにしてください」
「はぁっ!?レ、
!?」
そう言い捨て、は去って行った。
呼び止めようとしたサッチにさえ見向きもしない。
剣呑なやり取りのそれに、サッチはマルコに向き直る。
「おいおい、一体全体どうしたってんだ?」
「何でもねぇよぃ」
「何でもないなんて雰囲気じゃなかっただろうが・・・」
呆れて返せば、マルコもそれ以上答えることなく歩き出してしまう。
「おい!マルコ、待てって!」
引き止める声にも、マルコは取り合わない。
一人その場に取り残されたサッチ。
事情も全く分からないことに、頭を掻くしかなかった。
「どうなってんだ、ったく・・・・」
2013.7.15
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