「おねがいしますっ!
姉さん」
「・・・まずはその姉さんって止めてくれる?
話は聞いてあげるからさ」
「うっす!姉さん!」
「・・・うん、もういいや」
ーー衝突 1ーー
最近、白ひげ海賊団に新たなメンバーが加わった。
ウィルというまだ年端も行かぬ少年だ。
彼は船員でもなければ、のような同船者でもない。
そんな少年が、なぜ海賊船に乗っているのか?
それは引っ張り込む要因を自身が作ってしまったようなものだからだ。
時間は約一週間ほど遡る。
中規模な船団の襲撃を受けたのだが、あっさりと返り討ちにしたことから話は始まる。
戦闘後、敵船内の探索に同行したは、人の気配がある船室を見つけそこにいたのがこの少年という訳だ。
どうやら襲撃してきた船は人攫い紛いな事もしていたらしい。
狭く暗い船室には、ボロ布を着た若い男女が身を寄せ合っていた。
すでに冷たくなっていたが・・・
その場に放置する事もできず、唯一の生き残りであるウィルをどう扱って良いものか悩んでいた時、船長の白ひげが乗船を許可したのだ。
『近くの島までの間』と『見つけた奴が面倒を見ろ』という約束で。
厄介事を抱え込んでしまった自覚はあったが、その言葉に助けられたのも事実。
暫しの間だと考えていただったが、事あるごとに『姉さん』呼ばわりされるのが、正直うんざりしていた。
「で?どうしたの?」
「おれ、この船で海賊になりたいっす!」
「なればいいんじゃない?」
相談というから、何かと思えばそんなことか。
それは私に言うべきことではないだろ。
即切り返されたことで、ウィルは情けない声を上げた。
「そんな、姉さぁ〜ん」
「姉さん言うな」
「
さん!」
「よくできました」
褒めてやれば、満面の笑み。
だが、すぐにウィルの表情が曇った事では再び口を開く。
「だって、それは私じゃなくて白ひげさんに伝えるべきことでしょ?」
「いや、白ひげのオヤジさんにはでっかい恩があるっすから、せめてお礼をしてからじゃないと・・・」
幼いながら、礼儀を弁えている点は感心する。
「うーん、白ひげさんなら気にしないと思うけど・・・」
そう、あの人ならそんな小さい事をいちいち気にしないだろう。
それほどまでに、白ひげの器は大きい。
「遅かれ早かれ、言うなら今言ってくれば?」
「せめて、何かお返ししたいっす!」
「お返しねぇ・・・」
詰め寄るようなウィルから、期待の篭った眼差しが向けられる。
律儀過ぎるのもある意味考えものだ。
が、純粋なそれは眩しい。
・・・ウィルの気持ちを汲んでやれば蔑ろにするのも可哀想か。
「そういえば、白ひげさんはお酒好きよね。ナース陣には止められてるけど」
明後日の方向を見てそう言ってやれば、ウィルはたちまち食いついた。
「それっす!」
ま、そうなるように誘導したのはコッチだが。
名案だとばかりに、ウィルは一人で勝手に盛り上がっていく。
「次の島で、一番の酒を手にいれて、助けてもらったお礼をするっす!」
ぐっと拳を握るウィルに、は微笑ましく見、頷きを返した。
「いいんじゃない?白ひげさんも喜ぶと思わよ」
「ホントっすか!?」
「ええ。じゃあ島に着いたら、付き合うわ。
みんなに内緒にして驚かせてあげましょう」
それ位は、面倒を見る範囲に入っているだろう。
ウィルは心底嬉しそうに首を縦に振った。
2013.7.15
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