記憶を頼りに、財宝が隠されている場所へと向かう。
そこは街の北、足を踏み入れてみれば鬱蒼とした樹海だ。
海兵の姿がないことに、少しだけ安堵する。
だが、急がなければならない状況に変わりはない。
爆音を聞いていないということは、まだ最悪の状態ではないということだ。
道すがら、得た情報をマルコに話した。
事態を察したマルコは、ようやくその足並みを揃え、目的地へ急いでいた。
ーー芽生えた信頼 5ーー
(「どうしよう、思ったより森が深い・・・」)
地図はサッチが持っている。
詳細な場所はあれがなければ分からない。
急いで追いつかなければ、海軍の策略にまんまとはまってしまう。
「海軍の奴等も、味な真似をしてくれたもんだよぃ」
「そうですが、今は急がないと・・・」
十分に急いでいる中、さらにそう言う。
女の足ではほぼ走ってるに近いだろうに、未だにそのスピードは衰えない。
それを見ていたマルコは、その後ろ背に問うた。
「どうしてそんなに急いでるんだよぃ」
「はい?」
「お前には関係ないことだろぃ?それとも、彼奴らを弱いとでも思ってるのかよぃ?」
そうであれば侮辱だ、許す事などできない。
でもそうでないなら、なぜそこまで焦る必要がある?
「仲間でない私が、心配するのはおかしいですか?」
心情を的確に言い当てられたマルコは、続けて切り返した。
「義理はねぇはずだよぃ」
「あの船に乗せていただいている以上、恩義があります。郷に入っては郷に従ってるだけですよ。
それに・・・」
そこまで言って、口を噤んだ。
マルコはその先を促すように問う。
「それに、なんだよぃ?」
「なんでもありません。
早く急ぎましょう、怪我なんてしない方が良いに決まってます」
そう言って、は再び歩みを早める。
その背中を訝んでいたマルコだが、状況も状況なだけに口を閉じた。
はぐらかした方のは、急ぎながらも、マルコの先ほどの答えを抱いていた。
『自分の世界が欠けるのは嫌なんです』
そう言うのは憚られた。
絶対に何だそれは、どういう意味だ、と質問されるだろう。
己の内側深くに関わっているそれは他人に開けっぴろげに言えることではない。
白ひげ海賊団と共にしてもうすぐ2ヶ月。
すでに、彼らは自分の世界の一部。
欠ければ世界は色を失う。
それは嫌だった。
そろそろ森に入ってもうすぐ半時間が経つ。
サッチ達に追いつけないどころか、その痕跡さえ見つけられないことに、マルコは舌打ちをついた。
それを宥めるようには口を開く。
「もう近くまで来てるはずですよ」
「埒があかねぇ、俺は空から行くよぃ」
言うや、目の前に青い炎が広がった。
その光景には目を見張る。
初めて見た。
話や噂では十分すぎるほど聞いていたが・・・
「キレイ・・・」
敵には絶望を届ける死の色として。味方には希望の光として。
彼がその能力を表すのは、必ず仲間の前と決まっていた。
それが、白ひげ海賊団1番隊隊長、不死鳥マルコ。
「下は任せるよぃ、いいな」
「は、はい!」
飛び立つ姿を見送ったは暫くして、あっ、と声を上げた。
(「初めて、名前呼んでくれた・・・」)
少しは、認めてくれたということなのだろうか?
休まずに走っていた為か、その能力を見た興奮の為か、心臓の音がいつもより早かった。
2013.7.15
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