偉大なる航路を悠然と走るクジラを模したモビー・ディック号。
船の進路はここから南東、そこにある一つの島を目指していた。







































































ーー芽生えた信頼 1ーー







































































遡ること2日前。
考えなしのどこぞの海軍船が一隻、襲撃を仕掛けてきた。
だが、そんな戦力でこちらを倒す事などできる訳もなく、呆気なく沈められた。
その時、ある戦利品を白ひげ海賊団の船員が手に入れた。
とある島に眠るという、財宝の地図。
紙質もそこそこ古く、信憑性も高そうだということと補給も必要なことから件の島に向かうことになったのは当然の流れだった。

「う〜〜〜ん・・・」

見張り台から唸り声が一つ。
そして腕組みをし、眉間に皺を寄せている者が一人。

「なぁんか、なぁ・・・」

戦利品の地図を見せて貰って、は気持ちの収まりが悪かった。
白ひげの船と分かっていただろうに、どうして一隻で襲撃してきた?
勝ち目のない勝負を仕掛けた目的はなんだ?
確かに、海軍の司令官には残念な者もいる。
昇進しか頭にないとか、名を売ることしか考えてないとか。
そんな無能の下で命令に従わなければならない海兵を敵とはいえ同情を禁じ得ないが・・・
さて、今回の件はどっちなのだろう?

「うー・・・、わっかんなぁ〜い」
「何がだ?」

割り込んできた声に、は視線を向けた。
そこには、キョトンとした表情と、リーゼント。
4番隊隊長ともあろう人が、どうしてここにいるんだ?

「サッチさん、どうかされましたか?」
「こっちのセリフなんだが・・・」

まぁ、いいか、とひとりごちたサッチ。
そして軽快な仕草でと同じ見張り台に立つと、そのまま腰を下ろした。

「伝言だ。
今向かってる島にな、ログが溜まっても一週間は居るってよ」
「そう、なんですか・・・」

なんだか、不安を煽られているようだ。
ただの思い過ごしであれば、羽を伸ばせる絶好の機会ではある。

「最近じゃ、上陸もできてなかったからな。
船の修繕もしなきなんねぇしーー」
「財宝も探さなきゃなんねーし、ですか?」

サッチの後を引き継いで言ってやれば、にやりとした笑みが返される。

「当ったり前だ!
俺らは海賊、目の前の宝を見過ごせるかってんだ!」
「さよですね」

そう答えたに、今度はサッチが問う。

「お前はどうするんだ、?」
「私は・・・」

先ほどの考え事はまだ憶測の域を出ない。
隊長格のサッチにまだ言うべき段階でないだろう、とは判断した。

「ちょっと気になることがあるので、出かけてきます」
「凪風のか?」
「まぁ、それも含めて・・・ですね」
「ふ〜ん。ま、何かあれば声かけてくれ」
「大丈夫ですよ。自分の身は守れますから」

苦笑してそう言い、甲板に降りようと立ち上がる
その時、

ーーガダンッ!ーー
!」
「ど、どうしたんですか、突然?」

突如、勢いよく立ち上がったサッチにはたじろぐ。
何か大声を出されるようなことをした覚えはない。
気に障ることを言った心当たりもない・・・はずだ。

「違うだろ?」
「はい?」

全く脈絡を掴めない。
だが、サッチは真剣な表情からようよう口を開いた。

「そこは素直に『うん、絶対助けに来てね、お兄ちゃんv』
って言うところだったんだぞ!」
「・・・・・・」

地団駄を踏んでそう言ってのけた男に、はかけるべき言葉を失う。
そして、ここは放っておくのが一番と判断。
それと夢を見る男にきっちり捨て台詞を残して置く。

「サッチさんの妹像を私に押し付けないでください」

































































半日と経たずに目的の島に到着した。
特に役割を言いつけられなかったは、早速街に下りた。
宿屋を確保し、必要最小限の荷物を持って島の散策に出掛ける。

「随分、大きな島。
2、3日じゃ周りきれないわね・・・」

それを考えれば、一週間超の長期滞在は良かった。
島が大きければ必然と人も多い、得られる情報もそれだけ多くなるということだ。
まずはどんな島かを把握する必要がある。
それを手っ取り早く知る方法をの中では生み出していた。

「さて、行きますか♪」

まるでショッピングにでも行くような気軽るな声。
まさか彼女が海軍支部に侵入しようなどとは、誰も疑わなかった。

































































海軍に潜入して数時間。
気になる情報を得た。

(「さて、どうしたもんだか・・・」)

ペラッ、と新たなページを捲りながら、目の前の報告書の文面を追っていく。
この島では、やたらと海賊の検挙率が高い。
他の島と比べても大佐クラスで中将並みのレベルでバカすかひっ捕らえているらしい。
だが、これだけ海賊を捕らえれば新聞沙汰になっても良いだろうに、全くそれがない。
自身、島の名前すら初めて聞いたぐらいだ。

(「もしかして・・・」)

これは、思い過ごしだと判断した予測が当たってしまったかもしれない・・・

「これはちょっとばっかし、きちんと探った方が良いかもね」

の独り言は、薄暗い書庫に響いて消えた。












































2013.7.15

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