あぁ、今日は新月か。
道理でこの身体を嫌悪感が蝕む訳だ。
どうしてこんな面倒な身体になったんだか・・・
原因が分からないだけに、手立ての打ちようもない。
「はぁ・・・」
深々とため息をつく。
今日は長い夜になりそうだ。
ーー過去の傷ーー
時刻は夜もとっぷり暮れた深夜。
だが、夜明けにはまだ時間がある。
机上のランプを灯し、積み上げていた本の一冊を手に取る。
これくらいの厚みがあれば、夜明けまで時間が潰せるだろう。
ーーコンコンーー
こんな夜更けに、一体誰だ?
ただでさえ苛立ちが募るというのに、迷惑この上ない。
寝込みを襲うようなら、返り討ちにしてやる。
今日の利子は普段より2倍増しだ。
「おぅ、。お前まだ寝てねぇのか?」
「サッチさん・・・」
まさか貴方が、と少しばかりショックを受ける。
毎日のように、妹妹と煩いくらいに騒いでいた人が。
だがこちらの心情を他所に、サッチはずいっと部屋を覗き込む。
女性の部屋を勝手に見ないでいただきたい。
「お前、寝る時も灯りつけてんのか?」
「今日はそういう気分なんです」
「今日は?」
首を傾げるサッチに、は内心、しまったと独り言ちる。
いつもなら不審にならないように立ち回れるが、今は思った以上に余裕がないらしい。
そして素直に騙されてくれるほど、白ひげ海賊団4番隊隊長は甘くはなかった。
「寝ないつもりか?」
「・・・読みたい本があるだけですよ」
それ以上、突っ込んで欲しくなくて、ふいと視線を外す。
時間も時間、場所も場所だからいい加減、お引き取り願いたい。
だが、今日はトコトン思惑通りにいかない日のようで・・・
「なんか、イラついてないか?」
「ついてませんよ」
「い〜や、イラついてる」
「・・・・・・」
しつこく食い下がってくるサッチに、は頭を抱えたい気分だ。
今だってどうにか苛立ちを表に出さないようにしてる(既に微妙だが)というのに、それをわざわざ煽るようなことを言わないで欲しい。
もうここは、ストレートに言うしかない。
「サッチさん、出て行っていただけませんか?」
「やだ」
「・・・・・・」
即答でそう答え、子供がするように舌を出すサッチ。
それを冷めた目で見つめたはバッサリと切り捨てた。
「中年のおっさんが、そんな風に言っても気持ち悪いだけです」
「きも・・・!」
魚のように口をパクパクさせるサッチ。悪いが今日はフォローするつもりはない。
分かったら出てけと言外に示すが、サッチはドカッと扉の前に腰を下ろした。
「理由を教えてもらうまで居座ってやるぞ」
「・・・・・・」
あなた、いくつなんですか?
少しは歳を考えた振る舞いをして欲しい。
「・・・・・・はぁ、もぅ・・・」
僅かに明るい部屋とは違い、扉の向こうは闇。
それがさらに苛立ちを増長させる。
根負けしてように、はポツリと口を開いた。
「・・・苦手、なんです」
「?」
疑問符を頭上に浮かべるサッチに、は苛立ちの原因を話す。
「暗闇になる今日みたいな日が苦手なんです。
昔よりはマシになったんですけどね」
掻い摘んだの話に、真面目な顔になったサッチが問うた。
「ガキの頃に何かあったのか?」
「さあ?」
「はあ??」
他人事のような返答にサッチは胡乱気な視線を送る。
するとは、
「記憶がないので、何とも言えません」
「!」
些細な事だという風にそう言った。
返すべき言葉にサッチが迷っていると、それを遮るように苦笑したの笑い顔が暗闇を向く。
「ただ、嫌なんです・・・」
組んだ腕を掴む手に力が篭る。
それを下から見上げるように見ていたサッチ。
話は終わりだと、は視線を下げた。
「分かったら出て行ーー」
「よし!俺が朝まで話し相手になってやろう!」
「・・・私の話、聞いてました?」
>余談
「・・・仕事はどうするんですか?」
「安心しろ、明日は非番!」
「食堂で4番隊が担当だって、マルコさん言ってましたけど?」
「マルコにかわってもらうからいいの」
(「明日、絶対怒られるな・・・」)
2013.7.15
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