ーー鉢合わせーー
偉大なる航路、とある春島。
海軍の仕事にもようやく慣れ、近海の巡回に同行することになった。
海上では雑魚な海賊を捕縛し、後は本部に戻るだけだった。
が、いつもの如く、ガープ中将のわがま・・・奔放な命令から近くの島に寄港することになった。
「随分、穏やかな島ですねボガードさん」
「・・・ああ」
「暫く居座るか?」
「「やめて下さい」」
「ぶわっはっはっは!やっぱりダメか!!」
当たり前だ。
申請は行き帰りで一週間しか出していない。
帰りは余裕を見て4日を目算しているのだ。
ここに滞在することになれば、間違いなく申請した期日に間に合わない。
まぁ、相変わらず気にしないのは中将のみだが。
(「のんびりできるところだなぁ・・・」)
海賊などの襲撃がなければ、本当に穏やかな島だった。
時間がゆったりと流れ、風光明媚。
ガープとボガードが話している事をいい事に、はぶらぶらと景色を鑑賞する。
と、遠目に見覚えのある赤を見た。
(「わぁ、シャンクスさんみたいなかーー」)
「よう、じゃねぇか。
どーー」
瞬間、は音速で路地に消えた。
もちろん、声を発した赤も連れて。
数秒後、ガープとボガードは先程まで近くに居たはずの部下が消えていることに気付いた。
「なんじゃ、はどこ行ったんじゃ?」
「先ほどまで、いたはずですが・・・」
二人の上官の声は、穏やかな街に滲んで消えた。
一方、その頃のはというと・・・
「どうした、こんな裏道に連れ込んで。大人の階段を登らして欲しいのか?」
「どうしたじゃありません!それにどさくさに紛れてセクハラです!」
ベックマンさんに言いつけますよ、と言えば冗談だと笑い返される。
の目の前にいるのは、四皇赤髪のシャンクスその人。
まさかこんな所で鉢合わせするとは思ってもみなかった。
「なんで海兵の恰好してんだ?」
「事情があるんですよ」
「おーい、ベック。がーー」
「しーっ、しーっ!やめてください!
上官にバレたらどう責任とってくれるんですか、シャンクスさん!」
慌てて胸倉を掴んで詰め寄った。
が、裏道に近付く気配を感じ、すぐさまシャンクスの身体を引き寄せ、自身を壁との間に滑り込ませる。
至近距離に感じるシャンクスの鼓動。
だが今はそんなことより、海兵が四皇と額を突き合わせているとバレる方がまずい。
「なんだ、やっぱりその気ーー」
「斬り落としますよ?」
何処を、と言わないだけ迫力がある。
人が離れていく気配にはホッと肩の力を抜き、シャンクスから距離を置く。
「情報収集するって言ってたろ?」
「現在進行形でその真っ最中ですよ」
シャンクスの問いに眉間に皺を寄せて、素っ気なく言い返す。
このままこの辺をうろつかれては敵わない。
かくかく云々とはシャンクスに事情を説明する。
「・・・と、こういう訳なんです」
「お前・・・海軍から情報盗んでるのか?度胸あるな〜」
「その言葉、そっくりお返しします」
今この島に、海軍の英雄、モンキー・D・ガープその人がいるのだ。
彼が四皇だからと言って見過ごす訳がない。
意気揚々と捕縛にかかるだろう。
だのに、当の四皇サマは呑気に構えている。
きっとこの人だからできることだろうが・・・
「事情はご理解いただけましたよね?
だから私のことは見かけても他人のフリで通して下さい」
じゃ、そういうことで、と立ち去ろうとした。
だが、シャンクスのため息を耳にしたことで足を止めた。
「、お前分かってないぜ・・・」
「はい?」
一体何がだ?
分からない部分など皆無だったはずだ。
「俺は誰だ?」
「・・・ついに自分の名前まで覚えられなくなりましたか?」
心底哀れみの視線を向けるが、向こうは全く意に介さない。
「俺は海賊。欲しいものは奪うまでだ」
「仲間になる件でしたら、私の意志は変わりません」
「言ったろ?欲しいものは奪うって。
海兵ならちょうどいい。拉致れば問題ナシって訳だ」
いいえ、大問題です。
ニヤリと笑うシャンクスに、は遠い目をするしかなかった。
(「うわぁ、揉め事決定だ・・・」)
>余談
「赤髪!ルフィーを海賊の道に引き込みおって!とっ捕まえてやるぞ!!」
「よっし、若い女海兵を拉致れ!!」
(「どうなってんだ、こりゃ・・・」)
(「うぅ、ベックマンさん。ごめんなさい・・・」)
2013.7.15
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