「こんにちはっ!」
思わず力がこもった挨拶を恥じるでもなく、私は今か今かとその扉が開かれる瞬間を待った。
海に出て3年。
あちこちフラフラとしていたから、こんなに時間がかかってしまったがこの日、この時を楽しみにしていた。
あのレイリーが、彼以上の最高の船大工を知らない、と言い切った人物がここにいる。
歴史の紡ぎ手はどんな人なんだろう?どんな話が聞けるだろう?
扉に歩み寄ってくる音が焦れったい。
そして、その扉が開けられーー
「ンマー、誰ーー」
「はじめまして!トムズワーカーズ社長、トムさん!
海列車乗りました!感激しました!実は貴方にお会いしたくて、お話を聞きたくて、3年かけてこちらにお邪魔しました!本当、お会いできて言葉もありません!」
「お、おいーー」
「は!初対面なのにとんだ失礼を!私、
と申します!
一目お会いできただけですごく嬉しくて我を失ってしまいました!」
「ちょっーー」
「それにしてもずいぶんとお若いんですね!それも船を造っているからですか!?実はもうちょっとダンディな方を勝手に想像していたんです!」
「は、離ーー」
「こんな方が、オーロ・ジャクソン号を造られたなんて!私が見てきた世界もまだまだってことでーー」
「話を聞けえぇぇ!」
怒髪天を衝く見事な叫び。
迫られている青年の怒り声に、も思わず口を噤む。
と、
「何騒いでんだい、アイスバーグ」
今度はドアから妙齢の女性が出てきた。
そして、目の前の光景に暫し見入る。
女の上気した顔、なぜか涙目、密着している身体。
男はその肩に手を置き、こちらも赤い顔。
「おやおや、犯るなら場所を変えな」
「違うわっ!!」
「え?何かやってくださるんですか!!」
「お前も黙れ!!」
ーー楽しみだったんです!ーー
「たっはっはっはっ!こりゃあ、傑作だ!」
「笑い事じゃねえよ、トムさん!」
「だははは〜、タコみてぇに真っ赤だぜ!バカバーグ」
「てめぇは黙ってろ、バカンキー!」
ーーゴヂンッ!ーー
「いでっ!」
廃船島、橋の下倉庫。
偉業とは対照的な寂れた場所、そこに目的の人物はいた。
「ほ、本当にごめんなさい///!!」
盛大な勘違いをしてしまった訳だが・・・
誰よりも真っ赤な顔をしたは、床に額を擦り付ける勢いで頭を下げる。
「まぁまぁ、そんなこと気にしないでこっちに座りな」
「・・・お言葉に甘えます」
ようやく立ち上がったは、勧められた椅子に腰掛ける。
目の前には本物のトムズワーカーズ、社長その人。
魚人であるその大男は、先ほどから腹を抱えて笑っぱなし。
全く話ができる状態ではない。
ついと視線を移せば、肩にかかるほどのスミレ色の髪の青年の背中。
そして、床で頭を押さえている空色の短髪の青年。
「あの・・・」
おずおずと、声をかければこちらに向いたのはさも不機嫌な顔。
「・・・・・・」
「本当、すみませんでした」
「もういい。俺こそ大人気なかった態度とって、悪かった」
だからもう謝るな、とふいと視線を外すアイスバーグにはようやく肩の力を抜いた。
「ありがとうございます。
さすがはトムズワーカーズの社員さんですね」
「ところで、トムさんに何の用だい?」
妙齢の女性、ココロに問われたは居住まいを正した。
「はい、実はーー」
そう前置きし、ここに至るまでの経緯を説明する。
「かの海賊王ゴール・D・ロジャーの海賊船、オーロ・ジャクソン号を造った船大工に一目会いに。
それと、できればお話もしたいと思いまして」
手短に伝えてみれば、返ってきたのは沈黙。
そして、
「そんなんで、一人で偉大なる航路渡ってきたのか!?」
「ええ、自分の目で世界を見て回りたかったので」
呆れるアイスバーグ、ぽかんとするフラム。
いつの間にか笑いを止めたトムはを見つめていた。
そして、の視線はそのトムに向けられる。
「貴方のことは、ある男から話を聞いていました。
『彼以上の最高の船大工を知らない』
かの冥王にそう言わしめた男に、私は会いたかった」
の言葉を噛みしめるように聞いていたトムは、暫くして笑みを浮かべた。
「そうか、あいつはそんなことを言ってたか」
「はい。それと、会ったらよろしく言っておいてくれとも」
「んん?どういうことだ?」
レイリーとの関係の事を思っての発言だろう。
はふわりと笑む。
「レイリーは私の養父なんです」
「たっはっはっはっ!そうか、あいつの娘か!
おい、嬢ちゃん名前は?」
「です」
「よし、!よく来たな。何でも聞け。ドンと答えてやる」
>余談
「あ、あの!海列車の件で落ち着いたら、私の船を作ってくださいませんか!?」
「船?」
「はい!一人でも操れるものが良いです!」
「たっはっはっはっ!いいだろう、考えといてやろう」
「ホ、ホントですか!!!」
2013.7.15
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