(「うふふ、楽しみ〜」)
手元の乗車券を見ながら、ホクホクとした表情では内心で呟いた。
ーー線路は続くよ、どこまでも〜ーー
造船の街として有名な水上都市、ウォーターセブン。
別名『水の都』
今、世界的偉業の発表を待っていた。
それはこの偉大なる航路、海上の線路を走る蒸気機関外車船、パッフィング・トムの初就航だ。
10年と言う歳月をかけて作られた海列車。
それを造った人物に会う為、ははるばる足を伸ばしたのだ。
既に4年前に完成していた海列車。
それが本日、「カーニバルの町」サン・ファルド、「春の女王の町」セント・ポプラ、「美食の町」プッチ、世界政府機関エニエス・ロビー間の定期便の開通式典があるのだ。
伝説の船大工に会うなら、やはり噂の海列車の乗車も体験しておくべき。
そう思い色々手を回して手に入れたのが手元の乗車券、という訳だ。
「うわっ、すごい人だかり」
海列車の前には、大勢の人が詰めかけていた。
地元の人、報道陣、世界政府の人間etc…
ま、世界的大ニュースなのだから、それは道理なのだが・・・
「う〜、これじゃあどこから乗ればいいのか・・・」
「何してんだ、姉ちゃん」
キョロキョロ辺りを見回している時に声をかけられ、振り返った。
そこには、ゴーグルを額にかけた、小金色の髪の少年がこちらを見ていた。
「海列車の乗車口って分かる?人が多くて見つけられなくて・・・」
「姉ちゃん、乗車券持ってんのか?」
「もちろん、ほら」
ぴらりと懐からそれを見せれば、少年のキラキラとした視線が向けられる。
「すっげぇ!
今日のは人数限定なんだろ!!どうやって手に入れたんだ!?」
「うふふ、色んなコネがあってね」
「お、おれも乗せてくれよ!」
詰め寄る見ず知らずの少年に、は唸る。
「う〜ん、そうしたいのは山々だけど、手持ちはこれ一枚なのよね・・・」
「一人ぐらいどうってことないだろ!」
いや、それを判断するのは私じゃないし、と内心突っ込む。
「でもねぇ・・・」
「じゃあ、乗り場おしえてやんねぇ」
「はは・・・」
なんつぅ、子どもじみた返答だ。
ってか、子どもか・・・
そんなもの、別な人に聞けば事足りてしまう。
だが、少年の海列車を見つめる視線に熱が篭っているようでは問うた。
「どうして、海列車に乗りたいの?」
「おれ、海列車が完成して初めて走るのを見たんだ。
それでおれもあんな海列車をつくれる船大工になるって決めた!
でも、まだ乗ったことなくて・・・」
なるほど、将来の船大工の卵、という訳か。
このような場所でこのような出会いをしたのも、もしかしたら何かの縁かもしれない。
そう思い、は少年に手を差し出した。
「ダメもと覚悟なら、そこまで案内してくれる?
未来の船大工さん?」
少年は、とても嬉しそうに頷いた。
海列車は波風を切って、線路を走る。
「うわぁ、綺麗〜、気持ちいい〜」
窓から景色を見るは感嘆の声を上げる。
船とはまた違う爽快感だ。
乗り場に着き車掌と交渉したら、あっさりと少年の乗車もOKされた。
乗車券にあった『VIP』のサインがモノを言ったのか。
ま、結果的にすんなりと乗れたのだから、良しとしよう。
「あの新聞で見た海列車に乗れるなんてね〜」
思い出すのは4年前。
レイリーが新聞を見ながら、語って聞かせてくれた昔の話。
こんなものを偉大なる航路に走らせてしまうとは・・・
伝説の造船会社「トムズワーカーズ」その人からますます話を聞いてみたくなった。
「すげぇ!すげぇ!ほんとうに、海の上を走ってる!」
「本当ね、感激〜」
対面の席には、海に落ちるのではないかというぐらい、はしゃいでいる少年。
が服の裾を掴んでなければ、落ちても不思議はないほど身を乗り出している。
快走する列車に揺られ、潮風が頬を撫でる。
規則正しい駆動音がまるで楽曲のような調を奏でる。
「線路は続く〜よ〜、ど〜こまでも〜♪」
「なんだ、その歌?」
口ずさむに、ようやく顔を引っ込めた少年が聞く。
すると、はニッコリと笑った。
「ん?ある島で歌われていた列車の歌よ。ふいに思い出してね〜」
「ふ〜ん」
そう言った少年は再び海の外へ乗り出す。
の歌は潮騒と蒸気音に溶け込んでいった。
>余談
「そうだ、少年、お名前は?」
「おれはパウリーだ」
「私はよ。船大工になったら私の船のメンテナンスは貴方にお願いしようかしら?」
「おぅ、まかせとけ!」
2013.7.15
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