シャボンディ諸島は今日も変わらない。
観光地は賑やかに、駐屯基地では規律ある声が、無法地帯では小競り合いが起きていた。
そんなうららかな昼下がり、とあるバーの入り口に立つ人影が一つ。
その影は小さく息を吸うと、勢い良く扉を押し開けた。
「ただいま!」
ーー初めて自分で見た世界はーー
3年振りになる。
だが、店の様子はどこも変わっていなかった。
「?帰ってきたのね」
「うん、シャッキーただいま!」
久しぶりの再開に、二人は笑顔で挨拶を交わす。
が、シャクヤクの手には二人のそんな和やかな雰囲気とはかけ離れている状況が握られていた。
「突然帰ってきてごめんね。仕事中だったんでしょ?」
「いいのよ。すぐにぼったくる(終わらせる)から、お茶にしましょう」
どこぞの小物海賊だろう。
この『シャッキー'S ぼったくりBAR』で素直に支払いを済ませないとは命知らずな。
ま、世間知らずとも言うが・・・
シャクヤクはその細腕からは到底運び出せないような巨漢の男を軽々と引き摺って外へと出て行った。
そして先ほど言った通り、たいした時間を要さず店に戻ってきた。
「帰ってくるなら連絡すれば良かったのに」
「ビックリさせたかったんだ」
「ま、元気なら何よりだわ」
「レイリーはいるの?」
「ええ。昨日、コーティングの仕事を終えたからまだ上で寝てるわ」
「じゃあ、私、起こしてくるね」
「ええ、その間にお茶の準備をしておくわ。
話、聞かせてくれるんでしょ?」
「うん、聞いてほしい!」
「で、どうだったかね?」
「うん、聞くのと見るのとじゃ違った。とっても広かったよ!」
レイリーも揃った所で、はこの3年の出来事を話し始めた。
「仲良くなった人とかできた?」
「仲良く、か・・・
ここに戻る直前、1年近く一緒に航海したのが赤髪海賊団かな」
「そうか、シャンクスと一緒だったのか」
「うん。レイリーも意地悪だよね、シャンクスさんがロジャー海賊団に乗ってた事教えてくれれば良かったのに・・・」
シャンクスさんからレイリーの話を聞いた時驚いたんだから、とは口にした。
「よく話してやったはずだが?」
「『見習いの生意気で騒がしい小僧』のどこがシャンクスさんなのよ・・・」
呆れたは一つ息を吐き、気を取り直したように話を続ける。
「それにしても、手配書より実物のシャンクスさんの方がカッコ良かったね。
副船長のベックマンさんも紳士で素敵だったし・・・
ちょっとレイリーに似てたよ?」
見透かしてるところとか、と言った。
その言葉に、あらあら、とシャクヤクはにやけ顏。
レイリーは微妙な表情になる。
そんなレイリーの反応に気付きながら、シャクヤクはその話を掘り下げた。
「で?そのいい男二人は幾つなの?」
「歳?えーと・・・シャンクスさんは28歳で、ベックマンさんは31歳だけど?」
「ふ〜ん、そうなの〜」
「それがどうしたの、シャッキー?」
「何でもないのよ、気にしないで」
「?」
益々笑みを深めるシャクヤクに疑問符を大量に浮かべる。
そんな二人の会話を中断させるように、レイリーの盛大な咳払いが響いた。
「うおっほん!
・・・クロッカスには会えたかね?」
「え?うん、会えたよ!面白い話、聞かせて貰った!」
「それは良かったな」
にこやかな微笑を浮かべるレイリーに、シャクヤクはぼそりと呟く。
「これからが面白いところだったのに・・・」
「そうかそうか!他にはどんなことがあったんだ?」
先ほどの話題に戻らせまいと、レイリーは新たな話を振る。
は順を追って思い出すように指を折り始めた。
「えっとね〜
七武海に殺されかけたでしょ〜
探検家の末裔からロマンいっぱいな話しを聞いたでしょ〜
雷切の修行もさせてもらって〜・・・
あ!すっごく美味しい海上レストランがあるの!今度行こうよ!」
目をキラキラさせたがそう言えば、シャクヤクもその話に乗り気になった。
「海の上にレストランなんて素敵ね」
「うん、それにオーナーも大物なんだよ〜
美味し過ぎてさ、開店したばかりで人手が足りないからしばらく手伝ったりして楽しかった〜」
「だからコーヒーの腕前が上がったのね?」
「あ、分かった?」
「だが、手伝ったのはそれだけが目的ではないだろう?」
「あはは、流石・・・賄も美味しかったです」
「まるでその辺にいる子供みたいね」
の楽しげな様子をシャクヤクがそう言えば、は
「そういえば、子供で思い出した。
東の海で大人顔負けに強い悪ガキ3人組の逃走を手助けを・・・」
そう言いかけて、は言葉を失った。
微妙な顔になるに、シャクヤクとレイリーは不思議そうに訊ねた。
「どうしたの?」
「あー、うん。
その町で革命軍のリーダーとお会いした・・・」
なかなか衝撃的だったよ、と頬をぽりぽりと掻きながらはその時の事を思った。
話が一区切りつくと、辺りはもう日が落ちていた。
早目に店仕舞いするシャクヤクを手伝うに、レイリーは聞いた。
「しばらく居るのか?」
「ちょっとだけ!
実はねもうすぐ海列車が開通するから、ウォーターセブンに行きたいんだ!」
嬉々として語る。
だが、レイリーはその話は初耳だった。
「どうしてそんな事知っているんだね?」
「・・・・・・あ」
自分の失言に気付いたは、あからさまに視線を逸らした。
>余談
「新聞にもそんなことは載ってなかったと思うが?」
「そ、そうだっけ?」
「?」
「・・・か・・・」
「か?」
「海軍からこっそり教えてもらっただけだよ?」
「なら、この手配書は何かね」
「!な、なんで知ってるの!?」
2013.7.15
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