偉大なる航路のとある島。
穏やかなその島にレッド・フォース号は着港していた。
そこまで大きくない所だが、貴族が治めるだけあって、治安も良い。
そして、面倒な社交場も健在。
領主たる貴族の豪華な屋敷では、絢爛な催しが行われていた。































ーーSure, I'd love toーー































(「息が詰まる・・・」)

眉間に皺を寄せたベックマンは内心、ひとりごちる。
殺気に近い苛立ちのお陰で、誰も声をかけてこないのがせめてもの救いか。
なぜ海賊である自分が、こんな場違いな所に、場違いな格好をして立っているんだ。
こんな姿をお頭や船員に見られれば、いい笑い者になるのは目に見えてる。

「よくお似合いですね、そのタキシード」

こんな状況に巻き込んだ声に、不機嫌さを隠さない顔を向ける。

「誰のせいだとーー!」
「あれ、褒め言葉ですけど」

続きの文句を思わず呑み込んだ。
目の前に立っているのは誰だ?
普段、まとめ上げている髪は下ろされ、かけられたウェーブがふわりと揺れる。
ぷっくりと艶やかに光る唇。
大胆に開いた胸元。
深くスリットの入った深海色のドレス。

「ご協力、感謝してます。ベックマンさん」

普段とは全く違う装いに、かけるべき言葉が見つからない。
10近く離れているというのに、服が変わるだけで、ここまで変わるものか?

「どうかされました?」
「・・・馬子にも衣装だな」

どうにか、それだけ言えば当の本人は怒るでもなく笑った。
それは化粧を施された顔では、妖艶に変わる。

「この格好の方が潜入しやすかったんですよ」
「俺が必要だったとは思えんがな・・・」
「だってパートナー同伴だったんですもん。
あの船でマナーに通じて、社交が分かっているのはベックマンさんしか思い当たらなかったんです」

シャンクスさんじゃあ、騒ぎを起こしそうで不安で、と言う
確かにその予測は間違っていないだろう。
あの人なら、こちらの期待以上に引っ掻き回したことをやってくれる。
だがにそう言われたとしても、こっちは海賊。
その手の褒め言葉で喜ぶ自分ではない。
これなら、早く帰って寝てしまいたい。
そう思っていると、耳に響いた雅な演奏。
ダンスホールには、正装した男女が次々と踊り出す。

「お嬢さん、私と一曲お願いできませんか?」
「いえいえ、ぜひ私と!」
「あの〜、お誘いは嬉しいんですが・・・」

隣では複数の男に囲まれたが断りを入れる。
だが、向こうも退く気はないらしく、しつこく迫って来る。
暫くこいつと時間を共有していた賜物か、顔は笑っていても苛立ちを隠しているのが分かった。

「悪いが、そいつは俺と踊る事になってる」

我ながら、お人好しになったものだ。
お頭の事をとやかく言えたもんじゃない。
取り巻きとなっていた男共は、俺の顔を見るなりすごすごと引き下がっていった。
たわいもない連中だ。

「ありがとうございました、ベックマンさん」
「気にするな」
「何時もなら簡単なんですけどね・・・」
「そんな服で回し蹴りなんざしてくれるなよ?」

はっきり言って、目の毒でしかない。
今のその格好でも十分に目のやり場に困る。
こちらの心境など気にしてないかのように、は笑って分かってます、と答える。
さて、言ったからには付き合ってやるしかないか。

「おい、まだ仕事にかからないのか?」
「ええ。この屋敷の当主が現れないと、その部屋にお邪魔できないので」
「なら、それまでの時間潰しだな」
「時間潰し?」

小首を傾げるに、俺は膝を付いた。
戦闘でさえそんなことはしないが、今は海賊ではない。
暇潰しだ。
余興に興じるのも悪くない。

「Shall we dance,lady?」

























>余談
「お仕事お終い!さて、船に戻りましょう」
「この格好で、か?」
「ログは溜まってるんですから、急がないと!」
「・・・勘弁してくれ」





2013.7.15

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