(「あぁ、もう最悪・・・」)
もう何回目か分からないくらい、は内心で呟いた。
耳に入ってくる下卑な声が耳障りで仕方なかった。
ーー初めて言われましたーー
「なぁ、姉ちゃんよ。連れねぇじゃねえか」
「酌するぐらい減らねえだろうよ」
(「無視、無視・・・」)
手早く目の前の料理を口に運ぶ。
折角作ってもらったのだ、早く胃の中にしまってしまおう。
味も楽しみたいが、如何せん周りがよろしくない。
そうでなければ人相も人柄も大変よろしくないこんな輩と、同じ場所になんていたくない。
「・・・ごちそうさま、マスター」
「あ、ああ。まいど」
不安気な主人に料金を支払う。
そしてすくっと立ち上がり、出口へと向かう。
が、
「おいおい、姉ちゃん無視はいけねぇ」
「人と話すときは相手の顔を見ねえとな」
「はぁ・・・」
取り囲む輩に溜め息がこぼれる。
まったく、こっちは穏便に済まそうと思っているのに、なんなんだこのゴロツキ連中は。
「どうした?怖くて声もでねぇか?」
「ま、俺たちゃ海賊だ。ビビっちまうのも仕方ねぇ」
「ちげえねぇ、ぎゃははは!」
もう、実力行使をしてしまおうか。
だがここでそれをしてしまえば、周りを惨状にする自信がある。
(「でも、このままっていうのも癪・・・」)
その時、
「おら、向こうで楽しくやろうぜぇ」
「!」
ーーバキッ!ーー
ーーガッシャーン!ーー
「のわあっ!」
に近づいた男の一人が吹っ飛び、テーブルに盛大に突っ込んだ。
しばし、沈黙の後、怒声が響き渡った。
「て、てめぇ!何しやがる!」
「ふざけやがってこの女!」
「痛い目をみたいらしいな!」
怒り心頭の自称海賊の男達に、は不敵な笑みを浮かべた。
「私の尻も安く見られたものですね。
薄汚い手で触ったからには高額請求を覚悟してもらいます」
そう言ったは、片手をくいくいと男共に向ける。
さもかかってこいと言わんばかりだ。
それを向けられた男達は怒りに顔を真っ赤にし、一斉に襲いかかってきた。
しばらくすると、昏倒した男達が積み上がった。
面倒事もあったものだ、とはぱんぱんと手を叩き深々と嘆息した。
と、
「いやぁ〜、見事なもんだ」
かけられた声に、まだ残っていたのかと、嫌悪の視線を向けた。
だが、そこにいたのは予想もしていない人物だった。
床に腰を下ろす鮮やかな赤い髪、左眼に三本の傷、おそらく黒いマントの下は隻腕。
「・・・貴方は」
どうして、四皇であるはずの彼がここにいるのだろう?
いや、それより気になる事がある。
「あの・・・どうして、床に座っているんですか?」
「あんたが殴り飛ばした男共がそっちに飛んでいったとばっちりだよ」
カウンターに座り、紫煙を上らせ、酒を手にしている長髪を結った男が言う。
この人がいるのも道理か。
だがその話が事実だとすると、床に座らせてしまったのは、紛れもなく自分の責任だ。
「大変な失礼をしてしまい、すみませんでした。赤髪のシャンクスさん」
申し訳なく頭を下げるに、キョトンとした赤髪の顔。
間違った事を言ったつもりはないはずだ。
続いてカウンターにいる男にも頭を下げた。
「あなたの船長に礼を失しました、すみません。
副船長ベン・ベックマンさん」
「いや、気にするな」
こちらは二つ返事で軽くあしらわれる。
まあ、これが普通の反応だろうではないかと思う。
ふう、と小さく息を吐いたは未だに視線を感じるそこを向いた。
そこには顎に手を当て、こちらをじーっと見つめる赤髪の姿。
「あの、まだお気に触られてますか?」
「ん〜〜〜・・・」
唸るだけの赤髪に、困ったなぁ、は頬を掻く。
これからのおおよその行き先は決まっていた。
だが、急ぎの旅ではないとはいえ、ここで足止めをされるのは嫌だ。
「あの・・・」
助けを求めるようにベックマンに視線を向ける。
すると、それを受けた当人はしばらく船長を見た後、に告げた。
「気にするな、お頭のいつもの病気だ」
「病気?」
そんなのでここまで見つめられても、正直迷惑なんだが・・・
もう失礼しても問題ないだろうか?
いや、問題ないということにしよう。
「すみませんが、私はこれーー」
「よし、決めた!」
膝を打って立ち上がった赤髪は、の前に立ちふさがった。
身長差から見上げる形になったそこにあったのは、無邪気な笑顔。
意図が分からず、は眉根を寄せた。
すると赤髪がニッと笑い口を開いた。
「お前、俺達の仲間になれ」
「・・・は?」
どうしてそうなる。
私を仲間にだなんて、物好きですね。
そんなこと・・・
ーー初めて言われましたーー
>余談
「初めまして、と言います」
「?もしかしてレイリーさんの娘ってお前か!?」
「どうして知ってるんですか?」
2013.4.21
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