「うわぁ、なんて大きなお城かしら!
感激v」
なんて、海側から来たら・・・まぁ、来ても言わんか。
生憎、そんなキャラじゃない。
ーー新しい可能性ーー
ジャヤで聞いた話を元に、反対側の島に渡って来た。
そこで見たのが城。
・・・ではなく、ハリボテベニヤ板仕様の、城に見せかけた裏にあった何の変哲もない一軒の家屋だった。
ーーコンコンーー
「すみませ〜ん、どなたかいらっしゃいませんか〜?」
ドアをノックしても、返事は返らない。
留守なのか、と思ったは近くの切り株に腰を下ろす。
「うーん、出歩く人じゃない、って話だったはずなんだけどな・・・」
そう言って、辺りを見回す。
手近には森、周囲は海。興味を引くものはない。
「つまんなーー」
ーージオォ〜・・・ーー
この声を聞くまでは。
は音源の森を向いた。
「うわぁ、変な鳴き声・・・」
どんな動物が出す声だったんだろう?
僅かに興味が湧いたため、その森に行こうとした。
と、
ーーボコンーー
「ん?」
海から波とは違う音を拾う。
その音の正体を確かめるように、海へと足を向けた。
そして、波打ち際に到着。
しかし、辺りに音を出すものは見当たらない。
まさか海王類でもないだろうに・・・
「おっかしいなぁ・・・」
耳には自信がある方だったのだが、まさか空耳か?
ーーボコン、ボコンーー
再び聞いたそれに、足元に視線を落とした。
そこには海面に気泡がたっていた。
それは徐々に泡立つ間隔が短くなっていることが分かる。
膝を折ったは、興味深そうに海面を見つめた。
そして、顔を見せたのは・・・
「栗?」
見紛うなき、特徴的なフォルム。
そして、その色。
「うわぉ、海中から栗なんて、さすがは偉大なる航ーー」
ーーザバァーーーン!ーー
「こぉらぁ!俺の縄張りを荒らす奴は誰だぁ!!」
「・・・誰?」
栗ではなく、人だった。
「ったくよ、どっかの海賊が来たのかと思ったぜ」
「お騒がせしまして、すみません」
(「早合点したのはそっちでしょうに・・・」)
にっこりと笑いながらも、心中できっちりとツッコミを入れる。
テーブルの上には手土産のチェリーパイ、コーヒーが並んでいた。
「で、俺に何の用だ?」
「貴方、というか貴方の祖先方ですね」
「なんだそりゃ?」
胡乱気なクリケットに、は手荷物から一冊の本を取り出した。
「こちらの童話をご存知で?」
それはいつか読んだ、北の海の童話『うそつきノーランド』という本だった。
それを手に取ったクリケットは先程よりも渋い顔になった。
「貴方がこの話の主人公『ノーランド』の血族であれば、何か伝え聞いている事があるんじゃないかと思いまして」
「物好きな奴だ。俺の話が本当だって保証はねぇぞ。
なんだって、世間様で『うそつき』と言われてる血を引いてんだからな」
「かといって、嘘を言っているという保証にもならないと思いますが?」
臆する事なく、言い返せばクリケットは面食らった。
それを見たはふわりと笑う。
「噂とか世間様で何と言われていようが、どうでもいい性分なんです。
私は自分が見たものを信じる質でして」
「じゃあ、何でここに来た?この童話の話の内容も信じてねぇんじゃねえのか?」
「全てを信じてない訳ではないんですよ。でも、そうですね・・・」
うーん、と唸った。
と、思いついたのかピンと人差し指を立てた。
「ここに来たのは興味本位です」
さらっと言ってのけたに、クリケットは何とも言えない顔をした。
「面白そうだから来たってか?」
「はい。黄金都市なんて、ロマンじゃないですか」
「眉唾ものだったらどうする?」
「あら、心配してくださるんですね?」
そう切り返せば、クリケットは慌てたように声を荒げた。
「バッ、バカ言え!俺ぁ、そんなんじゃ・・・」
「あはは、すみせん、悪巫山戯がすぎました」
すぐにそう言えば、クリケットは無言で拳を振り下ろしてきた。
それを難なく避けたは、何事もなかったように話を続けた。
「私も馬鹿正直ではないんですよ。
ただ、北の海の王族は尊大で有名ですし、史実の捏造なんて歴史的に見ても横行してます。
鵜呑みにするのはちょっと・・・と思っただけです」
「なるほどな。だが、大人をからかった報いは受けてもらうぜ?」
「痛いのはイヤですよ。それに、女性に手を上げるなんて狭量です。
手土産で勘弁してください」
「こいつ・・・」
ジト目で睨みつけるクリケットに構わず、はのんびりとコーヒーを傾ける。
「それに、クリケットさんから聞ける話に偽りはないだろうと、お会いして確証を得ました」
「は?確証だ?」
何だそれは、というクリケットにはカップを置いた。
「童話の舞台『シャンドラ』がおそらくこの島だということです。
だから、貴方は動かずにいらっしゃるのでしょう?」
「バカ言え、そんなんじゃねぇよ・・・」
ふい、と視線を逸らしたクリケット。
それに、は問うた。
「じゃあ、どうして海に何度も潜ってまで海底を探っているんですか?」
「!」
驚いた表情を浮かべるクリケットに、は何の事は無いとばかりに口を開いた。
「クリケットさん、海から上がったのに唇が青紫色です。
寒さでないなら、それはチアノーゼ。
それに、無意識かもしれませんが関節を何度も摩っています。
これって、長期的かつ何度も海に潜らないと出ない潜水病の症状ですよね?」
「・・・・・・」
「まぁ、私は医者じゃありませんからそれ以上詳しいことは分かりませんけど・・・」
話を区切ったは、切り分けたチェリーパイをフォークで刺し、口に運ぶ。
そして兎も角、と前置きすると、
「自分の身体がそこまでなっている方の言葉と、噂や先入観だけで動かない方の言葉。
どちらが本当かどうかよりも、私は動いている方の話に耳を傾けたいんです」
ご理解いただけましたか?とクリケットに問う。
暫く黙していたクリケットだが、盛大なため息が一つ零れた。
「バカだな・・・」
どちらに向けての言葉なのか分からず、は怪訝な顔になる。
すると、クリケットはビシッとに指を突きつけ、言い放った。
「俺と同じ位バカ野郎だ、おめぇもよ」
「あは、自覚済みです」
>余談
「しゃあねぇ、話してやるよ」
「やった!
なら空島で知ってる事も教えて下さい!」
「空島だぁ?おめぇ、本当に物好きだな」
「だって、空に浮かぶ島なんてロマンじゃないですかv
あ!あとあと、森で変な鳴き声聞いたんですよ!
それとーー」
「わぁったから、落ち着け!」
2013.7.15
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