「う〜ん、着いたぁ〜」

背伸びをしたは凝り固まった体をめい一杯伸ばした。
偉大なる航路にあるジャヤ島。春島であるそこは穏やかな気候だ。
そこにある町、モックタウン。
別名「嘲りの町」
連日、殺しや喧嘩が絶えず、海賊が根城にしている無法地帯。

(「海軍も放置するのもしょうがないかもね・・・」)

そう思ったはトラブルに巻き込まれる前に早々に行動を開始する。
ともかく、情報収集だと手近のバーに入った。








































































ーー対局線ーー







































































「あ?探検家の末裔の居場所だ?」

カウンターに座る客からの問いに酒場の店主、テリーは首を捻る。

「ええ。北の海の絵本のモデルになった方の話らしいんですが・・・
この島のどこかにいるってまでは掴みまして」

何かご存知ありませんか?と聞くに、テリーは唸る。

「姉ちゃん、悪い事は言わねぇ。
あんなほら吹き海賊に付き合うこたぁねえぜ」
「ご心配はありがたいですが、お話を聞いてみたいんですよ」

フォークに刺されたチェリーパイを振って、にっこりと笑う。
するとテリーは折れ、だったら、と出口を指した。

「この町の対岸、東の島に行ってみな。そいつらの根城があるぜ」
「なるほど、ありがとうございます。ちなみにその方のお名前は?」
「ああ、モンブラン・クリケットだ」


































































まずは海へ行こうと歩き出す。
片手にはチェリーパイをお土産だ。
さてさて、どんな話が聞けるのか、と浮き立つ心で歩みを進める。
その時、

ーードゴーーーンッ!ーー

目の前で盛大に人が吹っ飛ばされた。
もうもうと土煙が上がる。
またかとばかりに、は厄介事から離れようと踵を返す。
そして歩き出そうとした。
が、

(「体が、動かない・・・」)

どういうことだと、と思った時だ。
突如、視界を覆ったのはピンク。

「フフフッ、珍しいお客がいるな」
「・・・・・・」

どうしてこの男がこんな所に。

「おチビちゃん、何だってこんな無法者の町にいるんだ?」
「・・・観光ですよ」

見上げるように視線を上げれば、輝くような短い金髪、赤い細身のサングラス。
口元に張り付けられた不敵な笑み、そして特徴的なピンク色のド派でな羽毛のコート。
七武海の一人、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

「ほぉ〜、観光で来たか」
「ええ・・・」

元々の懸賞金は3億4000万ベリー。
今の七武海で最も危険な男。

「あの、能力を解いていただけませんか?」

こんな大物と渡り合うには自分には荷が重すぎる。
それにこの男の興味に引っかかれば、ロクでもないことになるに決まってる。
折角、世界を見る為に飛び出したのに、こんな所で足止めなんてゴメンだ。

「フフ、フフフフフッ!
どんな女かと思えば、随分と肝が座ってるじゃねえか」
「私のような小娘をご存知で?ジョーカーさん?」

そう言えば顎を長い指で持ち上げられ、顔の距離が縮められる。
鼻腔を突く濃い香水。

「おいおい、こんな真昼間にその名前は口にするもんじゃねぇぜ?凪風」
「たかだか5000万の首、ご記憶されているとは光栄です、とでも申し上げればよろしいですか?」

苛立ちを含んだ視線で睨んでやれば、男の口元は不敵に歪む。

「おやおや、ずいぶんな口を聞くじゃないかおチビちゃん」
「私の自由を奪う権利は誰にもないってだけの話です」

素っ気なく言ってやれば、ドフラミンゴはすぐに切り返して来た。

「弱者は何も主張できねえんだぜ」
「その考えには同意見です。
では、私は用事があるのでいい加減、解放してください」

の言葉に面食らったのか、動きを止めたドフラミンゴは、けたたましく笑った。

「フフフフフッ、面白い女だ!
反抗したかと思えば、準じる。腹を読ませない奴は嫌いじゃない。
気に入ったぜ!」
「気に入らないでください。そして解放してください」
「なんだ、俺が嫌いか?」
「好きになれません。貴方がやっている商売も含めて」

嫌悪の眼差しとサングラス越しの視線が交差する。
しばらくしてドフラミンゴはサングラスを上げると、に手を向ける。

「おチビちゃん、いい事を教えてやろう」
「っ!」

自分の意志とは無関係に、愛刀が抜かれていく。
それに構わず、ドフラミンゴは言葉を紡ぐ。

「ルールや倫理ってのは変わるもんだ。
力を持った者、強者が今までの時代やルールを築いてきた。
それが過去に禁忌とされたことも、頂点に立った者によって善悪を塗り替える」
「人が人を虐げるのが当たり前の、腐った世界がまかり通っていい訳がないじゃないですか」

の言葉に、男の指がくいっと動かされる。
それによって、抜かれた刃が首に添えられた。
ドフラミンゴは呆れたようにため息をついた。

「おいおいおい、おチビちゃんが言ってる『腐った世界』は負け犬の言葉だぜ。
くだらんこと言う奴に生きる資格はねぇ」

首筋に走る鋭い痛みと何かが流れる感触。
このまま命が絶たれるのか。
悪いがそれだけは願い下げだ。

「なら、殺しますか?
世界政府すら欺いているほどの貴方がこんな小物を」

僅かに知っている情報を口にすれば、男の手が止まる。
真っすぐ見据えた視線に、男の口元に再び不敵な笑みが浮かんだ。

「これから時代は大きく変わる。せいぜい、その波に呑み込まれないこった」

唐突に動けるようになった。
何が彼の興味を引いたかは分からない。
でも、気まぐれでも命拾いしたらしい。
首筋を押さえたまま、は歩き去っていくピンクの背中を見送る。

「もしも、呑み込まれずその時代の幕開けを見ることができたら・・・俺が飼ってやってもいいぞ」

後ろ手を振る男に、は今まで抱いた感情を全て込めて言い放った。

「ご冗談を。私は誰の物にもなりませんよ」

























2013.7.15

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