生まれてたかだか16年・・・くらいか?
生い立ち故に歳なんて気にしてないが、まぁそれくらいだろう。
育て親のおかげもあって、舌はそれなりに肥えていると思っていた。
もちろん、王族、貴族などと比べれば大した事ないだろうが・・・
だが、これは何だ?
こういった感動は、メイン辺りで来るのがセオリーというものだ。
一応、世間様と同じように考えていたくだらない常識は、音を立てて崩れていった。

ーーパクッーー
「!」

前菜のドレッシングから様子はおかしかった。
そして、二口目に運んだこのスープ。

「お、美味しぃい!」

床を転げ回って悶絶しながら、叫び出さなかった自分に拍手を送りたい。






































































ーーバイトは建前ーー







































































食事を終えた私は、料理長ゼフと会わせてもらった。
新しくオープンしたばかりもあって、客がまばらだったのは都合が良かった。

「お願いします!」

客席の一つに座る老齢の料理長に私は頼み込んだ。
この場にいるのはこのゼフと金髪の幼い少年、そして私の3人だけだ。

「しばらくで構いません。お手伝いさせてください!」

これほどの味、今に人気店になるのは間違いない!
それなのに、店をたった二人で回すのは人手が足りない。
この人も少なからず、そう考えてるはず。
何より、このお店で手伝いたい気持ちが強い。
立派なよさ毛を撫で話を聞いていたゼフは口を開いた。

「あんたみてぇな奴にゃあ務まるもんも務まらねえよ」
「なっ!どうしてそんなこと・・・言えるんです?」

予想外の返答に、噛み付くように食い下がる。
すると、ゼフはさも面倒という表情を浮かべた。
だが、こっちだって色んな経験を積んでいるのだ。
そんな顔を向けられたとしても、ここで引き下がってなるものか。

「お嬢ちゃん、おめぇは誰の前に立ってるか分かってるのか?」
「はい?」

問われている意味を測りかね、思わず問い返してしまう。

「俺をただの老いぼれコックでも思ってんなら、悪いこたぁ言わねぇ。
何も知らねぇ小娘は黙って帰んな」

お前なんぞに用はない、と言われているようで口を噤んだ。
湧き上がる悔しさに拳に力が篭る。自然と落ちる視線に、ゼフの話は続く。

「ここは海上レストラン『バラティエ』。
海軍や海賊共が彷徨いてるここで店を構えるってのはな、覚悟がねぇとやっていけねぇ」

その言葉に、私の心は決まった。
覚悟?上等だ。
目の前の男に『Yes』と言わせてやる手札は手の内にある。
私は俯いていた視線を上げた。
そこには、言葉を切ったゼフと正面から向かい合う事となる。
相変わらず厳しい顔つきの男は、三度、口を開いた。

「興味本位で手ぇ出すもんじゃねぇってこった。
分かったらーー」
「元クック海賊団ーー」

挑むような口調に、初めてゼフの顔が変わったのが分かった。
このカードはゼフの過去。
これで折れないのなら、諦めもつく。
しかし彼には決して忘れる事などありえない単語を、滔々と紡いでいく。

「そして、海賊船クッキング・ジョージ号船長。
かつて偉大なる航路を一年航海し、無傷で生還した男。
相手の返り血を浴びた靴が赤く染まったことから付けられた異名は『赫足』。
その脚力は岩盤を砕き鋼鉄にも足型を残せるほどの威力とか。
当時かけられた懸賞金7000万ベリー。
9年前、客船オービット号を襲撃した際に嵐に巻き込まれ、壊滅・・・
と、海軍では処理されています」

今までとは全く違う、かつて海賊を率いていた頭の顔でこちらを見据える。
だが、こちらも一般人ではない。
普通なら竦むだろうそれも、私はにっこりと笑って返す。

「これでも、『何も知らねぇ小娘』ですか?」
「堅気の人間じゃねぇな?」
「私は世界中を観光している、一観光客です。
ただ、ちょっと諸事情に詳しいだけですよ」

そう言ってやれば、ゼフは口を閉じた。
よし、これで向こうの言い分に勝ったはずだ。

「おめぇにゃ、何の義理立てもねぇ。
さっさと、帰んーー」
ーーダンッ!ーー
「ありますよ!」

まだ言うか、とばかりに感情の昂りをテーブルを叩きつけた。

「こんな美味しい料理、初めて食べました!
それが人手が足りないくらいで味が落ちるなんて、勿体なさすぎです!」

目を丸くするゼフと、キョトンとした面持ちの少年に構わず、私は思いの丈をぶつけた。

「フロアのことは任せて下さい!
最高の料理は最高のもてなしをしてこそ、最高の味になると思います」

胸を張ってそう言えば、しばしの間。
さて、どんな答えが返る?
ドキドキして待っていると、まず響いたのはため息。
え、ため息?

「・・・仕方ねぇ」
「!じゃあ・・・」
「そこのチビナスに店ん中、案内してもらえ」
「オレはチビナスじゃねえ、クソジジイ!」
「よろしくお願いします!」

こうして海上レストランは腕前の他に看板娘ができたそうな。

(「うふふ、賄いが楽しみ♪」)

だがしかし、その真の目的は別の所にあるとは、本人のみが知る所である。












































>余談
「いらっしゃいませ、バラティエにようこそ!」
「おうおう、ここかぁ?どんな料理人でも雇ーー」
「入店希望の方ですね!」
「よぉよぉ、姉ちゃん。俺達をそこらのヤワな料理人と思われちゃあ困ーー」
「オーナー!入店希望者です!」
「「話を聞け!!」」
「うるせえぞ
新入りなら引き摺って連れて来やがれ!」
「はぁ〜い」
「「・・・え?」」
ーードカスカバキッ!ーー





2013.7.15

Back