この国に来て、一週間が経とうとしている。
海軍支部からすでに情報はいただいていた。
そしてすぐにこの国を出ずに留まっているのには理由があった。
「『天竜人』が来るだなんて、世界政府は何が目的なのかしら?」
新聞をテーブルに投げ置き、ソファに身を投げたは呟く。
今更、王城に忍び込むにも海軍に潜入するにも、警備が強化されている。
(「海軍に目新しい情報はなかったしなぁ・・・」)
じーっと天井を見つめる。
「それに・・・」
今日、高町へ入る事ができなかった。
検問所で追い返され、それは他の者でも同様のようだったが。
前日は大したこともせずに出入りできたと言うのにだ。
(「何かが起ころうとしてる、ってこと・・・?」)
ん〜と考え込んでいたが、よしっと立ち上がった。
「気晴らしに散歩でも行くか」
すでに太陽は沈んでいる。
だが、街灯も充実し月明かりもある。
凝り固まってしまった思考を整理するにはちょうどいいかもしれない。
ーー腐敗したセカイーー
「ずいぶん、風が強い・・・」
強すぎる風でフードが翻る。
何度も直すが何度も捲れてしまう。
そのうちは面倒になってそのままに歩いていた。
中心街から海へ、海岸沿いを歩く。
そして目に留まったのはたくさんの人の影。
「あれは、軍隊・・・?」
腕章を見たは人影をそのまま目で追う。
あの方向は”不確かな物の終着駅”のある大門。
「何が起ころうとしてーー!」
その時、鼻を突いた焼け焦げる饐えた臭い。
毎日のように煙が上がっていたそこから、こんな臭いがしたことはない。
それに深夜にも関わらず、懸念の場所は昼間のように明るい。
こんな時にもしも火事なんて起これば、惨事は免れーー
「!まさか・・・」
思い至った推測にの血の気が下がった。
ーー天竜人の訪問ーー
ーー高町への入場制限ーー
ーー火が上がる前に動いた軍ーー
腹の底から突き上げる激情には拳を握る。
「消せば、切り捨てれば・・・いいってこと?」
知り合えた男の子3人はあそこに住んでいると言っていた。
態度は粗暴だが、まっすぐで人として気持ち良かった。
小綺麗に着飾っているこの街の住民とは比べ物にならないくらい。
これが、美しい国?
「腐ってる・・・」
思い出すのは幼い頃。
天竜人の暴挙を目の当たりにした、理不尽な思い。
友を傷つけられたあの悔しい思い。
「世界はどこまでも、変わらない・・・」
「変えたいか?」
響いた声にはばっと音源に向く。
警戒はしていた。
まさか背後を取られるなんて・・・
(「何者なの・・・」)
漆黒のマント、目深なフードからは表情は読み取れない。
「深夜に女性の背後を取るなんて失礼ですね」
「そんな深夜帯に一人で歩くのもどうかと思うが?」
正論を言われたは言葉に詰まる。
確かに仰る通りだ。
「で、私にご用ですか?」
「情報屋『凪風』」
「!」
その名前を知っていると言う事は、堅気の者ではない。
「この国を・・・世界を変えたいか?」
「大それた事を仰りますね」
「その口を突いた思いは本音だろう」
「・・・・・・」
いつから居たんだ、この男は・・・
強風の中、フードがはためきようやく男の顔が露になる。
顔面を縦断する大きな刺青、鋭い眼光、自信に満ちた風格。
「この世界を変えるなんて、世界政府を敵に回す発言ですよ?」
「ならお前は歪められた世界を見続けたいのか?」
「・・・どうして、そんな事を聞くんです?」
この男、本当に何者だ?
どうして私が世界を回っている理由まで知っている?
それとも勘繰りすぎだろうか?
警戒を高めるだが、男の視線はこちらから外れない。
「この国のように不要なモノを淘汰する隔離社会はーー」
こちらを無視して話を続ける男。
だがーー
「世界の未来の縮図だ」
その話に思わず引き込まれる。
「そんな世界に幸せはない。それを変えないか?」
男の言葉には息を呑む。
ドックン、と心の奥底が揺さぶられた。
思わず手が伸びそうになる。
と、
「ドラゴン!そろそろ、船に向かうっチャブルわよっ!」
「うわっ!ずいぶん大きな頭・・・」
唐突に現れた人物に、囚われていた空気が霧散し、手が下がった。
そして、はドラゴンと呼ばれた男から、頭の大きい男(?)をしげしげと見つめる。
「・・・ってか顔?」
「んん?何だい、この小娘は」
小娘呼ばわりしたどぎついアイメイクの男(?)は、ドラゴンと呼ばれた男と同じ出で立ちだ。
「ってか、大きな頭とは失礼な奴だね!頭かち割ってやろうか、ヒーハーッ!」
「はぁ、なんともエキセントリックな方で・・・」
ん?今、なんて名前が出た・・・?
「なっ、ま、まさか・・・革命家ドラゴン!?」
狼狽するに構わず、ドラゴンは問うた
「凪風、お前の答えを聞こう」
「わ、私はーー」
ーーまだ世界を見始めたばかりなので、どちら側にもつくつもりはありませんよーー
>余談
「イワ、間の悪い奴だ」
「あんな小娘を引き入れるつもりチャブルの?」
「あれの存在はすぐに大きくなるぞ」
(「ってか、あんな強風でフードがめくれないってどういうこと?」)
2013.7.15
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