ーー噂と事実と真実とーー
カフェテラスに座り、ほのぼのとティータイムを満喫していた時だ。
「おい、おまえ!」
ぶっきらぼうな声に、視線を向けてみれば気まぐれで助けた少年が立っていた。
「あら、誰かと思えば」
そばかすの少年は、鉄棒を片手に相変わらず鋭い目つきをこちらに向ける。
「こんにちは、少年」
「おまえ、世界を旅してんだろ?」
つっけんどんにそう言う少年に構わず、はおいでおいでと手招きをする。
その様子に、警戒を露にする少年だが、話しずらいでしょ、と言ってやり席を進める。
そして、席に座った所では口を開いた。
「で、聞きたい事でもあるの?」
「おまえ、ゴールド・ロジャーを知ってるか?」
いきなりの質問に、首を傾げるがは首を縦に振った。
「噂程度にはね、それが?」
「もし、そいつに子どもがいたらどう思う?」
何を聞きたいのか分からない問いかけにキョトンとする。
だが、少年の表情は真剣そのもの。
幼いからと言って、はぐらかすのは憚られた。
「別に」
正直にそう言ってやれば、少年は固まる。
「は?」
「だから、別にどうも思わないわよ」
「うそだ!」
「どうして嘘だと思うの?」
「ロジャーは鬼で、死んでとうぜんだって、大人のやつらが言ってる!
だからそんな奴の子どもだってーー」
「死んで当然、とそう思う訳?」
「違うのか!?」
まるで噛み付くようにそう言い返される。
どう言ってやればいいのか、と悩む。
しばらくして、ようやく口を開く。
「私ね、4歳より昔の記憶が全然ないの」
「!」
「だから、親の顔も自分の素性も知らない」
話しの論点が変わった事で、そばかすの少年は怪訝な顔をした。
それに構う事なく、はまぁ聞きなさいと話しを続ける。
「もしかしたら普通の人の子かもしれないし、海賊王以上の大犯罪者の血を引いているのかもしれない。
そう考えた時期もあったわ」
ふふ、と笑うはカップから黙って話しを聞いている少年に視線を戻した。
「さっきの質問の答え。
海賊王の子どもの気持ちなんて、当人じゃないから私には分からないわ。
ただ世間の噂とか生まれで、大変な苦労もあると思う」
「・・・・・・」
「でもーー」
「でも?」
「生きてるって事以上に、価値のある事はないと思う」
それにね、と続けたはおどけたように片目を瞑った。
「世間では酷い言い様に言われてるけど・・・
私を育ててくれた人がね、実は海賊王の右腕って言われている人でさ」
「は?ホ、ホントか!?」
「ええ。だから、船長がどんな人かも話しを聞いたわ。
仲間からの信頼は絶大、本人と交流した人からも無類の好感を持たれた人物。
でも、世間との相当なギャップに私は戸惑った」
そこで話しを区切ったはカップにささったマドラーをクルクルと回した。
「だから、私は海に出たの」
ミルクが渦を巻き、色が変わっていく。
「尾ひれがついた噂じゃなく、歪められた事実でなく、自分の目で真実を確かめたくて」
ぽけ〜っとする少年に気付いたは照れたように、笑った。
「あは、1人で語っちゃってゴメンね。
少年には、ちょっと難しい話だったかな?」
「べつに・・・」
そっぽを向く少年に苦笑したは続けた。
「私はね海に出たおかげで、楽しい事も悲しい事も、綺麗な事も汚い事も見れた。
それを見る度に思うんだ・・・」
「生まれて生きてるからできるんだなって」
「他人は関係ないと思う。要は自分がどう思うかだからさ」
カフェテラスから海の方角を見つめたは、いつの間にかこちらを見ていた少年に向け言った。
「海に出なよ、少年。世界はとっても広いよ」
少年の目に映ったのはキレイな笑顔だった。
2013.7.15
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