「貴方がクロッカスさんですね」

扉を開けたそこに立っていたマントから紡がれた言葉に、初老の男は怪訝な顔をした。

「オーロ・ジャクソン号の船医を務めていたと聞きました」
「あぁ、随分詳しいなお嬢さん」
「貴方のことはレイリーから聞いてましたので」

唯一覗く口元が三日月になる。
聞き逃せないワードに、クロッカスと呼ばれた男の眉根が上がった。

「レイリー、だと?」
「はい。あ、手紙を預かってきてるんです」

どうぞ、とマントから手紙が渡される。
それを受け取ったクロッカスは手紙とマントの間で視線を彷徨わせる。

「詳しいお話は、私をお茶に誘ってからでいかがでしょう?」
「誰だ、あんたは?」
「あぁ、失礼しました」

そう言って、マントのフードが外される。
陽光にさらされた、薄茶の髪。
深海を思わせるロイヤルブルーの瞳。

「はじめまして、と言います」







































































ーー灯台守の昔話ーー







































































「ほぉ、あいつの娘か」
「ええ、孤児だった私を引き取ってくれたんです。本人は気まぐれだったんでしょうが・・・」

直接聞いた事はないが、そう感じ取っている。
あえて説明するつもりもないが。

「それで、こんな老いぼれに何の用だ?」

読み終えた手紙をテーブルに置き、クロッカスが訊ねる。

「お聞きしたい事があるんです」
「ワシにか?」
「ええ、貴方しか知り得ないからこちらにお邪魔しました」

その言葉に首を傾げるクロッカス。
すっ、と背筋を伸ばしたは、

「貴方の目から見た、ゴール・D・ロジャー船長の事を教えてください」

世間での通り名でなく、本当の名前を口にする。
それによって、クロッカスの顔付きが僅かに変化する。

「私は世界を自分の目で見たくて、旅をしています。
その中でも、一番気になる事があるんです」
「それは?」
「海賊王の世間の認識との差、です」
「ほぉ・・・」

まぁレイリーに育てられたからというのも、少なからず影響があると思うんですが、とは続ける。

「だから私は直接この目で見、耳で聞き、肌で感じたいんです。
その上で、自分の中で結論を出したい」
「それで一人でこの偉大なる航路に出てきたってのか?」
「はい。
自分で納得できないなら確かめて来たらいい、と教えられましたので」
「あの親にしてこの娘だな・・・」
「褒め言葉として受け取らせていただきます」

呆れ顔のクロッカスには笑顔で返す。
そして、初老の男は気を取り直すように腕を組んだ。

「あんたの親がレイリーなら、ロジャーのことは聞いてるだろ?」
「それはそうですが・・・
それはあくまでレイリーの視点、近しい者から見たロジャーさんの姿です。
私が知りたいのは、そういった偏ったモノではないんですよ」
「じゃあ、何が知りたいってんだ?」

クロッカスの問いに、は迷う事なく答えた。

「ゴール・D・ロジャー本人そのものを、です」

放たれた言葉に、クロッカスはポカンとした。
今、そんな事などできるはずもない。
何故ならその当人はもうこの世にいないのだから。

「ご本人とお話できれば手っ取り早いですが・・・
いらっしゃらない以上、知り得る方々からお話を伺うのが一番の近道ですから。
その人となりを知るには・・・」

そう言い、どうでしょうか、と暗に返答を求める
暫く黙すクロッカス。
だが、こちらを見据えるロイヤルブルーの瞳は心の奥底までを見透かすかのように動かない。
そして、そこにはかつて航海を共にした、あの副船長の眼光も宿っていた。

「・・・随分と、面白い考えをするお嬢さんだな」

ようやく紡がれた言葉に、の口元が上がった。

「それは『Yes』とのお答えと受け取っても?」

その顔は旅人よりも海賊というに相応しい。

「あぁ、話してやろうじゃねぇか」
「ついでに航海中の出来事もお話いただけると嬉しいです」
「ちゃっかりしてやがる」
「ありがとうございますv」


































2013.7.15

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