「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
・・・」
「なに?」
「事情を話さなければ分からないだろ?」
「・・・レイリーに関係ない」

只今、修羅場です。
























































ーー過去ーー
























































レイリーと顔を合わせて早々、険悪な空気となっていた。
何時もであれば、食事を取り日課となっている覇気と体術、剣術の鍛錬になるはずだった。
だが、レイリーから「ちょっとそこに座りなさい」から雲行きは怪しくなっていった。

「ここ数日、ろくな睡眠を取っていないだろ」
「取ってる」
「目の下にクマを作った者が言う台詞ではないな」
「・・・・・・」

間という間を置かずに、即答で返す に劣らず、同じく即答で返すレイリー。
いつもと変わらない穏やかなレイリーのその態度に、 の眉根がピクリと上がる。

「それに随分と纏う覇気が刺々しい」
「そんなことない」
「覇気の方が素直だと思うが?」
「私をわざわざ怒らせたいの?」

返答の全面に出る険を隠す事なく は言った。
その様子に、レイリーはいつもより更に声音を落ち着かせて質問を重ねる。

「私は理由を聞いているだけだ。
ここ数日は鍛錬にも身が入っていないだろう?」
「そんなことないってば」

ふいと、視線さえも背けてしまった
聞く耳さえ持つつもりもないそれに、レイリーは嘆息した。

、その状態がここ最近だけだとでも私が思っているのか?」
「!」

レイリーの指摘に、 の肩が跳ねた。
普段通りなら、彼女のこの様子は異常に近い。
ある一定周期ごとに、このような変調があることは見抜いていた。
だが、幼すぎたその頃は覇気のコントロールのこともあっての事だろうと思っていた。
だから、扱い方を身につけていく事でその変調も収まると推測していたのだ。
だが、それは6年近い年月を重ねても収まることはなかった。
生活に支障をきたすほどでもないことから、 自身から言い出すのを待っていたのだが・・・
さすがにそれを待つのも限界だ。
ここ数ヶ月は特に酷い。
今まで表情や態度にこれほど苛立ちを乗せることはなかった。
それに、身近な者にさえ弱味を見せるのを極端に嫌がり、なおかつ隠すのが上手い。
そんな彼女が、これほど分かりやすく弱味を隠しきれていない。
何故それほどまでに、苛立っているのか?
何が彼女をそこまで追い詰めているのか?
だが、 は頑なにこちらを向こうとはしない。
それに構わず、レイリーは話を続けた。

「君を引き取ってから、特に新月の前後数日。
夜は必ず明かりを灯しているだろう。
まるでーー」

言葉を重ねるごとに、 の緊張が高まっていることが分かる。
だが、彼女の為にもその理由を知りたかった。

「まるで、暗闇を避けるよーー」
「やめて!」

ここにきて、初めて声を荒げた
こちらを見つめる視線はまるで、敵と見なしたかのよう。
だが、 はその感情の高ぶりを抑えるように、絞り出すように続けた。

「・・・やめて、その話」

項垂れてしまった に、レイリーはしばらく口を噤んだ。
そして、時間を置いて再び続けた。

「理由は私だから話せないのかね?」
「・・・・・・」
「シャッキーにも話せないのか?」

黙したままの は動かない。
これでは話にならないと、レイリーはその肩に手を伸ばす。


ーーパンッ!ーー
「もう、放っておいてよ!」

ついに感情のままに声を上げた は、伸ばされた手を跳ね除ける。
それにレイリーは落ち着かせるように、宥め聞かした。

「放っておける訳がないだろう。少しは冷静になりなさい」
「なってるわよ!今は話したくないの!」
・・・」
「保護者面しないで!」
「!」

その言葉に、レイリーの動きが止まった。
しまった、と の顔は強張りおずおずとレイリーに向けられる。
その目に飛び込んできたのは、悲しげに笑う老年の男の顔。

「そうだな、私は実の親ではない」
「・・・」
「でも、心配ぐらいさせてくれないかね」
「・・・っ!」

レイリーの言葉に、 は外に飛び出して行ってしまった。
二人の、目に見えて初めての親子ゲンカ。
口を出す事なく傍観者となっていたシャクヤク。
気重に溜息をついたレイリーに慰めるように声をかけた。

「レイさん・・・」
「分かってるよ、シャッキー。
いずれ、こういうことが起こるだろうと思っていた」

むしろ遅かったぐらいさ、とレイリーは苦笑する。
それでも、その姿はいつもより小さく、そして寂しく映った。

も言い過ぎたと思ってるわよ」
「・・・そうだな、あの子は察しの良い子だ。
だがーー」

そう言って、琥珀が揺れるグラスを持つが、気が変わったようにそれをコトッと置いた。

「やはりはっきり言われるのは堪える・・・」
「そうね・・・」

その姿は、一人の娘を思う、歴とした父親の姿だった。



















































暫くそっとしておいた方がいいというシャクヤクの言葉に従い、黄昏になってからレイリーは幼い背中を探した。
それはバーからほど近い、いつも がいる波打ち際にその姿を見つけた。

・・・」
「・・・・・・」

声をかけるが、やはり無言。
膝を抱え、顔を俯かせたままの に再び続けた。

「日が暮れればここも危ない。帰るぞ」

そう言って動き出すのを待ったが、やはり動きは見えない。
日が沈むまでもう少し時間はある。
出直すか、と踵を返そうとした。
その時、

ーーカクンッーー
「?」

マントを引っ張られたようでその場に足が止まる。
振り返れば、見下ろすところに小さな頭。
顔を上げなかったが、暫くしてゆっくりとその顔がこちらを向いた。

「ごめん、なさい・・・」

両の目から今にも零れそうなくらい涙を溜めたロイヤルブルーの瞳。
もう先ほどのような激情はなりを潜め落ち着いているようだった。
見下ろしていたレイリーは、膝を折ると、ぐっと涙を堪える と視線を合わせた。

「いや、私も問い詰めるようなことをして悪かった。
良ければ、 が苛立っていた理由を教えて貰えると嬉しいんだが・・・」

そう言ってやれば、 は驚いたように目を見開いた。
その意味を測り兼ね、レイリーは首を傾げる。
しかし、小さな唇が先に動いた。

「追い出さないの?」
「どうしてそんなことをする?」

今度はレイリーがキョトンとしたように問う。
すると、

「だって、ひどいこと言った・・・」
「理由も分からないまま、そんなことはしないさ」
「でもレイリーのこと、傷付けた」
「大人の役目さ、気にする事はない」

そんなことを心配していたのか、とレイリーは苦笑した。
体術、剣術にも優れた才能を持っている彼女。
特に見聞色の覇気の扱いは群を抜き、物事の先や人の心を瞬時に見抜く。
だが、やはりまだ10歳の子供なのだと感じた。

「まぁ・・・分かればどうなるか覚悟してもらうがね」

悪戯っぽく笑うレイリー。
虚を突かれた は今日初めて笑った。
そして、自身より大きな手を取り、しっかりとこちらの眼を見つめた は話し出した。

「わたし、レイリーにひろわれたより前のことおぼえてないって話したよね?」
「ああ」

ふと口を噤んだ
握った手が僅かに震えているのが分かる
急かさず待っていると、再びその唇が動いた。

「でもね、3つだけおぼえてるの」

ポツポツと語られる、過去。

「まずは、赤ーー」

それは、現在を蝕んでいる棘。

「それが点々とつづいて、大きな水たまりを作っているの」

穏やかな心を漣立たせる。

「そして次が、闇。
自分の姿さえも分からない、手を伸ばしても何もつかめなくてとどかなかった」

きゅっと、その唇が引き結ばれる。
握る手に力が入ったのが分かった。

「さいごは泣き声。
誰かは分からないけど、多分ヒトだったと思う。
どうにかしたい、って思っても何もできなかった」

そう言った は、ゆっくりと肩の力を抜いていく。
そして、レイリーを見上げた。

「だから、真っ暗になるのがイヤなの。それを見るのも・・・
その時のことを全部おもいだすから。自分は何もできないって・・・」

そう言われているようで。
だから、自分は人と関わりを深めない。
関わらなければ、失うことはない。
泣く前に離れることができる。
今までずっと、そうしてきた。
だから、こんな風に自分の内側に踏み込まれるのは初めてだった。
怖かった、のかもしれない・・・

「そうか・・・」
「ごめんなさい・・・」

小さく項垂れる
レイリーはその小さな身体を抱き締めた。
腕の中に簡単に収まってしまうそれは、まだまだ弱々しくがんぜない。
それは彼女の心も表しているようだ。

「よく話してくれた。頑張ったな、

目を見張った

「どーして、そんなこと言うの?」
「君は弱味を言わない子だからな」
「傷付けたことはゆるされることじゃないよ」
「許されるさ、娘の勇気ある行動を父親が認めなくてどうする」

レイリーの言葉に、その瞳から涙が溢れた。

が私やシャッキーに両親を重ねないようにしているのは分かるが・・・・」
「・・・っ・・・」
「苦しい時に支えてやれない程ではないと思っているよ」
「・・・ん、うん・・・」
「辛いことを言わせてすまなかったな」
「んーん・・・ごめんなさい」

必死にレイリーにしがみ付く
服に染み込んだ涙は、とても温かかった。



















>余談
「さて、理由が分かったからには・・・」
「・・・・・・」

「うん・・・」
「今日は朝まで、昔の海賊時代の話をしてやろう」
「!いいの!?」
「ああ、勿論だ」






2013.7.15

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