「はぁ〜・・・」
ああ、今日もシャボン玉がゆっくりと空に昇っていく。
「つまんない・・・」
ーー祝すべき日ーー
はヤルキマン・マングローブの波打ち際で足を遊ばせながら一人呟く。
一週間ほど前からレイリーの様子がソワソワしていた。
それを直にシャッキーに言ったら、気にしないで大丈夫よ、といつもの笑顔。
シャッキーは変わらないのに、レイリーだけがソワソワしてるなんて変なの。
それにはっちゃんもここ1ヶ月、会ってない。
彼は魚人だから、仕方ないと幼いながらに納得している。
それはレイリーの様子がおかしい事に気付いたこの力のお陰だけど。
他の人の考えが分かってしまうのが時々嫌になる。
「うー・・・」
やる事もなく、手持ち無沙汰。
今日に限って、シャッキーの手伝いはないし、レイリーが居ないのにシャボンディパークに行く事もできない。
幼い自分が勝手に出歩くには、この島は安全ではないことは分かっていた。
「うみにでたら、たのしいことあるかな?」
かつて海賊だった、レイリーの話は楽しい。
だからといって、海賊になりたいと思いはしないが・・・
ただ、海の先にあるのは飽きる暇などない事の連続だという。
話で聞くのもいいが、自分で目にしたらまた違うのだろう。
自分の記憶では、この島以外の場所にいた記憶はない。
それはレイリーに拾われる以前の記憶が全くないからだ。
「・・・わたし、ここにいていいのかな?」
何の気まぐれか、レイリーに拾われて1年くらいになるだろうか?
シャッキーは優しいし、はっちゃんとも友達になれた。
初めてレイリーに出会ったあの満月の夜。
あのまま何もなければ、飢え死にか売り飛ばされるか、殺されていただろう。
この時代にはなんら珍しくもない。
「おやのかおもしらないし・・・」
だから、レイリーやシャッキーにその影を重ねないようにしている。
だのに、レイリーは娘のように自分を見てくれる。
それがくすぐったいが、血の繋がりがないことがその感情に影を落とす。
「かえってねちゃおうかな・・・」
こんなに気分が沈んでは、遊ぶどころではない。
時間もすでに夕方。
ちょっと早いが、ベットに入ってしまえば後はどうとでもなるはず。
「きめた、かえろっ!」
海から足を出し、シャッキーのバーに向かう。
この場所がバーの目と鼻の先だから、時間は要さないんだけど。
開店まではまだ時間があると思うけど、念の為とそろそろと店の裏口のドアを開ける。
ーーパアァーーーンッ!ーー
「ひゃあっ!」
突然の爆発音に、情けない声が出た。
意気消沈に気を取られすぎていて、力の発動ができていなかったのか。
恐る恐る顔を上げれば、頭上に落ちてきたのは、パサッという乾いた音、そしてーー
「「「お誕生日、おめでとう!」」」
降ったきた声に、ぽかんとする。
バーにいたのは、シャクヤク、はっちゃん、そしてレイリーだった。
3人共、皆こっちを見て笑顔。
誕生日とは生まれた日を家族が祝う日だと教えて貰ったのは、つい先日のこと。
今日は誰かの誕生日だっただろうか、と首を捻る。
「だれの?」
「 、あなたの誕生日よ」
「え?」
シャクヤクの言葉に、再び惚ける。
自分に誕生日などないはずだ。
生まれた日など覚えていないのだから。
すると、レイリーが近づき膝を折って視線を合わせた。
「今日は と出会ってちょうど1年だ。
娘となった運命的なあの日を、誕生日としてはいけない道理はないだろう?」
レイリーの笑顔に目を見開いた。
まさか、そんなことを考えてくれていたなんて。
「この一週間、相手をできなくてすまなかったな」
「そ、んなこと・・・ない」
ワンピースの裾を握る。
シワが寄るのも気にならない。
突き上げる感情に、どんな顔をしていいかも分からない。
俯いていると、ぽんと頭に手を置かれ、頭についた紙が払われた。
「どうした?具合でも悪いのかね?」
「ちがうの。ここがムズムズする」
胸を押さえそう言えば、レイリーは破顔した。
「嬉しいとそうなるんだ。
喜んでもらえたかな?」
「うん、ありがと・・・」
礼を述べると、レイリーは を抱き上げた。
視線が高くなると、部屋の様子が飛び込んでくる。
いつもはない紙の輪っかの装飾。
テーブルに並べられた、自分が好む料理の数々。
そして、中央を占領している丸いケーキ。
「すごい・・・」
「うふふ、 に気付かれなようにするには苦労したわ」
「私は動揺に気付かれてしまっていたがな」
「にゅっ!プレゼントさがすのに、時間かかったぞ〜」
世界の全てがキラキラと輝いていく。
つい先刻、落ち込んでいたのが嘘のようだ。
「さぁ、主役のご到着だ」
「始めましょうか」
「はじめるぞ〜!」
誕生日席に移動された 。
それぞれのテーブルについたレイリー、シャクヤク、はっちゃん。
3人の優しい視線が、こそばゆい。
「さぁ、 。
吹き消して」
ケーキに灯された火。
シャクヤクに促され、イスの上に立ち上がる。
そして、息を吸い込もうとした。
が、
「レイリー」
「ん?」
「シャッキー」
「なぁに?」
「はっちゃん」
「にゅっ?」
「ありがとう」
この日一番の笑顔を3人に贈る。
返ってきたのはそれ以上の笑顔。
そして、ケーキの火を吹き消した。
「おめでとう、 」
ーーこちらを見るレイリーの視線が、慈しみで溢れていて胸が一杯になったーー
>余談
「これ・・・シャボンディパークのフリーパス!」
「あぁ、明日行こうな」
「はっちゃんも?」
「私と離れないと約束だぞ」
「にゅっ!やくそくするぞ!」
「やったね、はっちゃん!」
「なら、新しい服はこれね」
「!かわいい・・・」
「おれもあるぞ!」
「なにこれ!キレイ・・・」
「あら、エンジェルスキンね」
「とても希少な幻の珊瑚だな」
「ありがとう、はっちゃん!」
2013.7.15
Back