私の一番古い記憶は3つだけ。
最初に思い出すのは赤。
点々と続いたシミが大きな水たまりに続く光景。
次は黒。
目の前に広がる闇。
手を伸ばしても何も見えない。
何も掴めない虚しさ。
そして最後は、泣き声。
誰の者か分からない。
だが、だんだんと小さくなるその声に、幼いながらなんとかしようとした覚えがある。






























































ーーあの日から全てが始まったーー






























































だから、私は血が流れる争いを。
それをする者を嫌う。
だから、私は闇を嫌う。
喪失を嫌う。
だから、私は誰かが泣くのを嫌う。
自分が泣く事を嫌う。

嫌いになって、嫌いになって・・・
いつの間にか、感情を出す事すら嫌いになっていた。
でも、その時の私は幼すぎて、内に渦巻く感情との接し方が分からなかった。
どう表現していいか分からなかった。

そんな時、私の前に現れたのが一人の海賊だった。
見上げたその顔は満月が逆光となって表情が見えなかった。
しばらくして、視線を合わせるようにその人は膝を折る。
何かを言われた気がしたけれど、今はよく覚えていない。
ただ、こちらを見た表情で、その人が泣いてる、と直感した。
その証拠の涙はなかったのに。
気まぐれだったはずだ。
普段はそんな事は決して言わない。
きっと、普段より明るい夜で気分が良かったから・・・

「なかないで」

誰かが泣く姿は見たくない。
そう思って言っただけだったのに、その人はずいぶん驚いたような顔をした。

「・・・何故、そう思ったんだい?」
「いたそうなかおしてる」

そう言ったら、その人は口を噤んでしまった。
怒られるような事を言ってしまったのだろうか?
でも、やっぱり泣いているのを見るのは嫌だ。
そう思って、その人に向かって手招きをしてみる。

「おまじないしてあげる」
「おまじない?」
「みみ、かして」

見ず知らずの子どもの言葉など、取り合う事などなかっただろうがその人は付き合ってくれた。
自分の目の前にその人の耳がくると、頭ごと胸に抱いた。

「お、おい・・・」
「ないちゃったときはね、ここのおとをきくとおちつくんだよ」

自身の腕では回りきらないが、その人の耳にしっかりと自分の鼓動を聞かせる。
自分だけが知っているとっておきの方法だ。
普段は教える事はないけど、ただこの人に泣き止んで欲しかった。
しばらくして、その人の大きな手が私の腕を解いた。

「ありがとう、親切なお嬢さん」
「もういたくない?」

そう問いかければ、大丈夫だと微かに笑ってくれた。
それを見て、ひどく嬉しかった。
そして、その人はその大きな手をこちらに差し出した。

「おまじないのお礼をさせてくれないか?」










































ーーそう、あの日から全てが始まったーー





















2013.5.2

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