ーーSnow meltーー















































































































(「あーうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるっさーーーい!」)

ザーフィアス城の廊下をは早足で歩いていた。
今誰かに会いたない。
というか、顔を見られたくない。
腕を掴まれ、振り返った瞬間のレイヴンの顔。
見間違いだったかもしれないが、記憶が戻った面差しでこちらを見据えていた。
瞬間、鼓動が跳ね上がった。
瞬間、呼吸を忘れた。
逃げるように出て行ってしまったが、不自然に見えなかっただろうか。

(「あーもー、馬鹿!私の馬鹿!!
単なるギルドの同僚ってことにしとけば良かったのに、よりにもよってなんで・・・なんであんな言葉のチョイス・・・」)

自己嫌悪に顔が歪む、息が詰まる。
自分で言ったくせに、何なんだこの意思の貧弱さは。
思い出さない方が良いと言ったんだろう?
今のままで構わないと言ったんだろう?
これまで何度も期待が裏切られてきただろ。
嫌となるほど希望が砕かれてきただろ。
貫け、自分で決めたんだ『望みは持たない』と。
ついに歩みが止まり、は廊下の端で頭を抱えた。
と、

「こんな所じゃ風邪ひくよ」

掛けられた声に肩が跳ねた。
恐る恐る顔を上げれば、若き騎士団長がいつもの爽やかな笑みを浮かべていた。

「久しぶりだね、
「そっちもね。相変わらず忙しいんでしょ?」

まぁね、と肩を竦めたフレンは朗らかに返す。
部屋に通されたは、広々とした部屋を見回した。
以前、一度だけ訪れたフレンの私室と似通う整理整頓ぶり。

「騎士団長になってもフレンは変わらないわね」
「そんな事ないよ。力不足ばかり痛感してる」
「またまた〜そんなご謙遜」
「事実だよ」

に頭を下げたフレン。
は?とが呆気に取られた。

「ちょ、フレンさん?」
「今回の件、どんなに謝っても許されるものじゃない。
シュヴァーン隊長の事、僕ができる事ならなんでもする」
「・・・」

一気に言ったフレンにはただ沈黙を返す。
しばらくして、フレンの頭に軽い衝撃が走った。

ーーコンッーー
「!」
「止めなさい、フレン。顔上げて」

渋々といった表情でフレンが顔を上げる。
その様子に腕を組んだはため息をついた。

「ったく、エステルと言い、フレンと言い。
どーしてこう生真面目なのか・・・それじゃ、政敵に簡単に足元掬われるわよ?」
「でもーー」
「黙って聞けv」
ーードシュッーー

笑顔のままは顔を上げたフレン額に手刀を落とす。

「今回の事、調べはついてる。
公務のスケジュールの都合上、悪天候でもすぐに帝都へ戻る選択肢しかなかったの。
そこに重なった天災の土砂崩れ。
例え親衛隊が護衛となってても、被害は間違いなく出てた。
今回は不運にも死傷者まで出た。
でも、副帝の命は守られた。護衛の任は果たされたの。
だから、フレンが頭を下げる必要は全くないの、分かった?」
「しかしーー」
「『しかし』じゃない」
「けどーー」
「『けど』でもない。
あと、シュヴァーンじゃなくてレイヴン。
いい加減覚えろ若者が」
「す、すまない」
「分かればいいわ、話はそれでお終い」

強制的に話を切り上げたに返されるのは、フレンの納得とは程遠い顔。
その理由も分かっていたは、柔らかく表情を崩した。

「ま、仲間からの気遣いは有難く受け取っておくから。
ありがとね」

出した珈琲を挟んで、フレンは目の前に座るに問うた。

「これからの事、決めているのかい?」
「そうね・・・まぁレイヴンの意思を尊重するつもりだけど、可能なら帝都に留まって貰った方が良いかなぁとは思ってる」
「ギルドに戻らず?」
「体調戻れば、騎士として訓練はできるでしょ?
剣術って身体は覚えてるものだから、すぐにカンは戻る。
そのまま護衛役とした方が良いかなって」
「でも、それでは・・・」
「ギルドの方はこっちでなんとかするわよ。
ただ、混成部隊に混乱出るようならちょっと上同士で調整してもらう必要はあるけどね」
はそれで良いのかい?」
「さっきから私が最善と思ってる話をしてるんだけど?」
「いや・・・それは、そうなんだけど・・・」

口籠るフレンは言葉を探すが、見つからないのか諦めたように視線を伏せる。
その言葉の続き。
はっきりと言葉にしない意味。
全てを分かっているは小さく笑った。

「やっぱり、フレンもユーリと同じね」
「やっぱり?」
「ユーリにも同じ事言われたから。『お前はそれで良いのか?』って」

素直に有難い、そう言った気遣いは。
と、以前のような心に余裕が持てた時ならそう言ってただろう。
だが、どうしてだろう。
今は酷く煩わしい。
心の底ではそう思いながら、それが表に出ないようは月が浮かぶ窓へと視線を投げた。

「2人の・・・ううん、みんなの気遣いは有難いよ。
今回、レイヴンは幸運にも生き残れた。
過去の分、この先の未来は少しでも穏やかであって欲しいって思ってる」

そう、穏やかであって欲しい。
心の底から思ってる。
だから、距離を置くと決めた。
ダングレストに戻れば、過去の姿を重ねて心ない言葉を投げる輩が出るかもしれないから。
そんなものに振り回される必要はない。
帝都になら安心して任せられる仲間がいる。
あの人を慕う義理堅い部下なら、騎士としての姿のまま受け入れてくれるだろう。
あとは、過去のきっかけを与えるだろう私が離れれば、もうレイヴンは穏やかに過ごせる。
新たな人生を歩めばいい。

「だからその枷になるなら、過去の記憶は必要ないわ。
これから先の思い出を作っていけば良いだけの話でしょ?」

前向きな言葉のはずなのに、どうしてか物悲しさをフレンは拭えないでいた。
































































Next
Back
2020.4.5