(「星が綺麗・・・」)
最近、空を見上げる事が多い。
その理由は分かっているが、今はそんな事に構っている状況ではない。
・・・ではないのだが、最近の習慣になっている。
予想通り援軍も期待できなかった。
さらに街への魔物襲撃も許してしまう失態。
(「身体、鈍ってたのかしらね」)
自嘲するような笑みを浮かべ、は窓を閉めた。
ーーAct.1-15ーー
机上の書類にサインを入れる。
これで仕上げるべき仕事は終わった。
身を包む疲労感には背もたれに身体を預ける。
その時、
ーーコンコンーー
「はい、開いてます」
ドア越しに投げた声に身体を起こすと、ゆっくりと扉が開けられる。
尋ね人の姿には目を見張った。
「エリー?」
「あはは、・・・今、大丈夫?」
「もちろん。
珍しいわね、貴女が訊ねてくるなんて」
普段であれば、作戦前に他の隊員と手合わせしている為、すぐに床に付くのが彼女の常。
それがこんな夜更けまで起きているなんて、珍しい以外の言葉が見当たらなかった。
紅茶の用意をすると、エリオスの前に置いた。
「どうしたの?眠れない?」
「いや、なんかさ・・・」
言葉を濁す緋色に、はますます首を傾げた。
いつもの明るさが見えないなんて、初めてではなかろうか。
カップの中身を見つめる鳶色の瞳は揺れる。
根気強く待っていると、しばらくしてから言葉が紡がれた。
「・・・、いなくなったりしないよね?」
「・・・」
突如としての問いかけに、の肩がぴくりと動く。
エリオスはそれに気付かぬまま、懸命に言葉を絞り出そうとしているようだった。
「あの・・・あのね!なんて言えばいいのか分かんないけど・・・
が遠くに行っちゃうようなヘンな気がしてさ」
「・・・うん」
「別に深い意味はないんだよ!
ただ、なんとなく不安っていうか・・・」
「そっか・・・」
この子は時に鋭い観察眼を発揮する。
素直だからこそ、本能で見抜いているのかもしれない。
は安心させるように微笑を浮かべ、緋色の頭を撫でた。
「心配いらないわ、エリー」
「本当?」
「もちろん。私が今まで嘘ついた?」
「・・・ううん」
「でしょ?
早く終わらせて、帰ったらみんなでパーティーでもしましょう」
柔らかい微笑みは他人を安心させるものだ。
それはエリオスも違わず、の言葉を聞いた彼女はホッとしたように身体の力を抜いた。
「ごめん。
なんか、らしくなかったね」
「緊張続きだったんだもの、仕方ないわよ」
苦笑するに、エリオスは普段の太陽のような眩しい笑顔を向ける。
僅かな胸の痛みを黙殺したは、彼女の頭から手を離した。
「明日は頼りにしてるわ。
エリーがいないと、うちの隊は締まらなくてね」
「うん!任せてちょ!」
ソファーから立ち上がると、エリオスは元気に部屋を後にした。
そう、いつも通りの彼女だ。
明日もいつも通りに任務を果たす。
(「そして、いつも通りの日常を取り戻す・・・」)
一人になったは、静かに胸の内で誓う。
「コホッ、コホッ・・・」
部屋の中に小さく咳き込む音が響く。
少し冷えただろうか。
先ほどの紅茶を出した分で、持ってきたお湯も無くなってしまった。
どうせなら淹れ直してこよう。
そう思い、は部屋を静かに後にした。
照明魔導器がかすかに揺れた。
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2019.8.14