ユルギスは明日の準備をしていた。
予想される状況、備えるべき対応策、隊の編成。
一息つけたのは日付が変わろうとする一刻ほど前。
そろそろベッドに入ろうか、と思っていたが目が冴える。
食堂で何か見繕うかと、部屋を出た。
ーーAct.1-15.5ーー
もう自分しか起きていないと思ったが、食堂には自分以外にも姿があった。
「?」
「あら、ユルギスじゃない」
自分と同僚であるは、こちらに軽く手を挙げる。
「どうしたの?こんな夜中に」
「ちょっと目が冴えてね。
君こそどうしたんだい?」
「私も同じようなものね」
こちらにやってくるユルギスに、は手にしていた紅茶を淹れる。
そこにリュキュールを加えた事で、辺りは香ばしい香りに包まれた。
「ハーブティーに甘めのお酒だから、今のユルギスにはちょうど良いかもね。
お疲れ様」
「ちょうどって?」
「明日の最終チェックして目が冴えた、ってところでしょ?」
「相変わらずは頭が切れる」
「誰かさんのお陰で事務方だけどね、はい」
「悪い。の淹れる紅茶はいつもうまい」
ありがと、という礼と共に渡されたそれにユルギスは口を付けた。
体内にじんわりとアルコールと、後から柔らかな甘味が広がる。
深夜の食堂は、星明かりだけで部屋の中は薄暗い。
会話がない今、そこは沈黙に包まれている。
ユルギスが視線向けると、窓から夜空を眺めるの横顔が映った。
まるですべてを悟っているような、満ち足りた顔。
ざわりとした胸騒ぎを感じたユルギスは、思わず手を伸ばす。
ーーパシッーー
「え?何?」
「あ・・・」
至近距離で見つめ合う形となった二人は、互いに驚いたように目を瞬かせる。
先に動いたのはユルギスの方だった。
掴んでしまった腕を慌てて放す。
「え、あ、わ、悪い!」
「いや、そこで照れられても困るんだけどね」
苦笑するに、赤くなっているだろう顔を隠すようにユルギスは片手で覆う。
薄暗い部屋という事を忘れている彼に、更に追い打ちとばかりには口を開いた。
「で、ユルギス副隊長?
いったいどうしたのでありますか?」
「・・・からかうのはやめてくれ」
降参だとばかりなユルギスに、素直にやめたは居住まいを正した。
「ごめんなさい。
ユルギスがあまりにも珍しい反応するものだから、つい、ね」
「君ってヤツは・・・」
「だから悪かったってば。
で?どうしたの?」
急に真面目な顔になった。
ユルギスも正直に問おうとした。
だがこの時、口を突いたのは別な言葉だった。
「・・・いや、何でもない」
「何よ、それ。
勿体ぶられると気になって眠れないじゃない」
「からかったお返しさ。
任務が終わったら教えてあげるよ」
「性格悪〜」
「ハハハ、君には負けるよ」
何よそれ、というの反応にユルギスは表情を崩す。
そして、それはも同様だった。
互いに声を潜めて笑い合う。
(「・・・そうだ、作戦前に不吉な事を考える事は止そう」)
胸をよぎった微かなざわめき。
きっと気のせいだ。
だから、今の僅かなこの時間だけはいつもの幸せに浸ろう。
例え、仮初のものだろうとしても・・・
あとがき
ユルギスとは良いパートナーである
さん。
色恋感情とは違う、男女の友情を成り立たせてみたかった。
ま、そっちでもイケそうだけどね(笑)
さ!次から新章スタートです。
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2020.1.14