街の襲撃から数日後。
シゾンタニアの街は深夜の帳に包まれていた。
そんな街沿いの岩場だらけの坂道に、一つの動く影があった。











































































































ーーAct.1-14ーー













































































































「ふぅ・・・おっさんには堪えるなぁ、この道は」

ぼさぼさの髪に着崩した紫色の着物、風来坊が人の形を取ったらこうなるのかもしれない。
しかしその姿は酒場で酩酊したそれではなく、疲れは見えるもののそこに隙はない。
まぁ、岩肌にもたれかかっている姿は毅然としているとは言えないが・・・・・・
と、夜陰に紛れ動く影に気づいたレイヴンは物陰に身を潜ませた。

(「こんな時間に何だ?」)

頭上にかかった橋の上では、騎士服に身を包んだ男が必死に口早に言葉を呟いていた。
耳を澄ませれば会話の内容がこちらまで届いた。

『本当です!魔術を使おうとしたらいきなり魔導器ブラスティアが爆発したんです!』
(「魔導器ブラスティアが爆発?!」)

近くに流れる滝の音に掻き消されながらも、主要な言葉を拾い上げる。
向こうからは死角になっている事をいいことに、レイヴンは身を振るように相手を見定めようとする。
そして、騎士の後ろ姿に掲げられた紋章に、目を見開いた。

(「あれはーー」)
「アレクセイ親衛隊ね」
「どわあーー」
ーービチッーー

叫び声は額に走った衝撃によって飲み込まれる。
痛みにうずくまるレイヴンは、自分と同じ答えを言った、そして指打を放った人物を見上げた。

「あ、あんたは・・・」
「自己紹介している場合?」
「あ、ちょっ・・・くそっ」

は悪態に構わず、険しい岩場を一気に駆け上がる。
それに遅れるようにレイヴンも続いた。
そして、騎士とその相手が話し合っている所から隠れるように物陰に二人が身を潜ませる。
盗み見た光景が、レイヴンと の目に飛び込んできた。

(「何!」)
(「・・・」)
『それでは報告書を預かります』

走り去って行く騎士が完全に気配が遠のくまでそのまま動きを止める。
ようやく物陰から抜け出すと、騎士と話しをしていた人物はシゾンタニアの街へと姿を消した。

「何だかややこしいことになっちまってんなぁ」
「そう?仕事が終わったんなら、メルゾムに報告に行ったら?」
「そちらさんは隊長にご報告?」

話しを振られた は、キョトンと目を丸くした。

「私が?どうして?」
「お宅さんの問題でしょうが?」
「ま、ギルドには関係ないわね」
「冷たい言い草ね〜」

口をへの字に曲げる男に、 はふわりと笑った。

「隊長には貴方からメルゾムに連絡がいくのでしょ?
私が連絡する必要はないわ」
「それもそうね。それより・・・」

おもむろに顔を近づけてきたレイヴンは、壁に を追いつめた。

「お姉さん、これからおっさんに付き合わない?」
「そうね。屍になりたいなら良いけど?」

チャキッと、喉元に無機物が添えられる。

(「あれま、いつの間に・・・」)

レイヴンは降参とばかりに両手を上げる。
黙って身を引いた男に、 は満足したように身を翻し肩越しに振り返った。

「貴方達には感謝してるのよ。
この街を、ナイレンを助けてくれてありがとう・・・」

向けられた微笑にレイヴンは目を見張った。
まるで儚く散るような微笑み、遺言のような言葉。
心を乱す懐かしい光景。
思わず引き止めようと手が伸びる。
しかし、それにはもう二人の距離はあまりにも離れてしまっていた。

「なんだってんだ・・・」

レイヴンは胸中に渦巻く感情に、眉を寄せるしかなかった。























































早朝、 は微睡みから目を覚ました。
雲は低く、上空からは静かに雫が降り落ちてきた。

(「身体・・・重・・・」)

重しが乗せられているような感覚に、頭を振る。
と、外から響く言い争いの言葉に、 は深々と溜め息をつきベッドから抜け出した。

ーードッ!ーー
「くっ!」
ーーゴキッ!ーー
「っの!」
ーーバキッ!ーー

雨に打たれる中、二つの影が縺れるように殴り合いを続ける。
その二人の姿をしばし眺めていた は、掲げた手を二人に向ける。

「・・・汚れなき汝の清浄をかの者に与えんーースプラッシュ」
ーーバッシャーン!!ーー
「「っ!!」」

頭上からかかった、質量の大きな水の固まり。
二つの視線は、軒下にいるラピードを抱く女性へと目を向けられていた。

「副隊長・・・」
「なんで・・・」
「付いてきなさい、二人とも」

普段とは違う雰囲気に逆らえず、言い争っていた二人は黙って後に続く。
そして、見慣れた扉が前に現れた。























































隊長の執務室に深々とした溜め息が響く。
自分の前に立たされる新人二人は、互いに目を合わせる事なく不貞腐れた顔をしていた。

「お前ら・・・何度そこに立たされんだよ。
ちょっと風呂入ってこい、話はそれから!」
「そんな呑気なことしてる場合じゃねぇ!早く何とかしねぇと!」
「すぐには無理だ」

いきり立つユーリにフレンの冷静な言葉が重なる。
予想していたとはいえ、 は問うた。

「どういうことかしら、フレン?」
「式典後じゃないと、援軍は出せないそうです。
現場を保持せよとの命令です」

後ほど、書類をお持ちします、とフレンが続けた。

「・・・そうか、御苦労」

小さく嘆息した後、ナイレンは呟いた。
すると告げられた内容に、ユーリは声を荒げた。

「お前、ちゃんと状況の説明したのか!」
「したよ!でもこれが本部の決定だ!」
「式典の後だなんて、そんな悠長なこと言ってる場合か!」
「僕だって言ったよ!
でも本部にとって優先されるのはこっちじゃないんだ!仕方ないだろ!」
「人が・・・・・・何人も死んでんだぞ!」
「っ!僕の努力が足りないって言うのか!?」
「もうやめろ」

落ち着いた力強い一言で、辺りは静かになった。

「・・・フレン、嫌な役回りさせちまったな。
配慮が足りなかった、すまん」

ナイレンの言葉に、フレンは神妙な顔になる。
しかし、それで収まらないのは漆黒の方だった。

「隊長!」
「ユーリ、事態はさらに悪化しているわ。
現状ではこれ以上魔物が押し寄せてきたら街を守ることは難しいわ」
「くっ・・・」

唇を噛み締めるユーリに、 は隊長に視線を向けた。
それに気づいたナイレン。
しばらくして、決心したように男は静かに頷いた。

「明日、遺跡の調査に向かう」

それを受け、フレンは弾かれたよう顔を上げた。

「無茶です!強行すれば犠牲者が出ます!
本部の命令に背いてはーー!」
「・・・親父さんのことか?」

静かな声で遮られ、フレンはぐっと言葉に詰まる。
が、ぽつぽつと語りだした。

「父は・・・あの人は命令を無視しました。
本部は攻撃を制止したのに」
「あの時だって下町の連中が死んだんだ。
お前や街の人を守るためーー」
父は!命令違反をして死にました。
後には・・・・・・何も残りませんでした」

ユーリを遮り、フレンの拳は震える。
絞り出すように、フレンは言の葉を紡いだ。

「私は、父と同じ過ちは犯したくないんです・・・」

辺りの沈黙にナイレンは何度目か分からない嘆息を深々と吐き、窓辺に足を進める。
こちらに背を向けたままの上司の姿を見た は、諭すように口を開いた。

「ねぇ、フレン。
私達がここにいる理由ってなんだと思う?」
「・・・治安を維持するためです」
「外れてはいないわ」
「魔物から街を守るためだろ?」
「それもあるけどね・・・」

でもね、と前置きをした は微笑を浮かべる。

「私達はここで生活している人達を守るためにいるわ。
それが騎士としての務めだと私は考えているの」
の言う通りだ。
なぁ、フレン。
お前の親父さんの行動が過ちだったのか、答えを出すのはもう少し騎士をやってみてからでもいいんじゃねぇか?」

いつも通りの快活な笑顔を向けられ、フレンは俯いた。
ナイレンは、その場の全員に伝えるように声を張った。

「明日、早朝に出撃だ。
ガリスタに作戦を任せる。 、皆に通達してくれ」

「了解しました」























































重い・・・ボキャブラリー低くてゴメンナサイ。。。




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2019.7.11