「他にケガ人は?」
「あ、あと10人です!」
「こっちは応急処置が必要だわ。誰か、この人の止血をお願い!」
「副隊長!お湯が沸きました!」
「手が空いたら薬と包帯とタオル!
街中から掻き集められるだけ集めてきて!」
ーーAct.1-13ーー
兵舎は殺伐としていた。
辺りを埋めるのは鉄臭と消毒液、痛みに呻く声。
米神を伝う汗も拭わず、は次々に指示を飛ばす。
「処置が終わった人から外へ!」
「了解!」
「、あと何人だ?」
白衣を引っ掛けた初老の男が訊ねる。
白い前掛けは赤く染まっていた。
「残り5人だったはずです。
うち2人は応急処置を済ませています」
「2人のクランケを優先。案内しろ」
「はい!」
の先導で、初老の男も後に続く。
歳に似合わずしっかりとした足取り。
は進みながら口を開いた。
「すみません、アスクラウ先生」
「何を謝る?」
「この街で医術を施すのは嫌だったのでしょう?」
廊下には二人の足音しか聞こえない。
遠くからかすかに喧騒が聞こえる。
「先生は身を隠すように、医術に関わろうとしなかった。
それなのに・・・」
「やめろ、それ以上言うな」
呆れたようなその声に、は肩越しに振り返る。
と、いきなり視界が塞がれた。
「きゃっ!」
「おらおら、よそ見してんな。
患者が待ってんだろ?」
乱雑に頭を撫でられ、ポカンとは呆気にとられる。
そして、悪戯が成功したように、男は笑った。
「てめぇの半分しか生きてないやつが、一丁前なこと言うからよ。
引っ込むのもどうかと思ったんだよ」
分かったら行くぞ、とアスクラウは進む。
はじんわりと暖かくなった胸に手を置き、深々と頭を下げた。
日が沈み、夜の帳が下りる。
雨まで降って来る中、は街の入り口にいた。
森へ行ったユルギス達は憔悴しきった様子で戻ってきた。
頭から血を被ったというヒスカは、特に顔色が悪い。
だが、姉のシャスティルが心配だからと身なりを整え、こうして待っていた。
と、馬の駆ける音が響く。
こちらに向かってくるナイレンの表情は、固い。
「何があった?」
「橋向こうの森まで、魔物が来ました」
クリスの報告に、ナイレンはさらに表情を厳しくする。
と、シャスティルはヒスカへと駆け寄っていく。
抱き合う二人から視線をはがし、はナイレンに近づいた。
「ランバート達が魔物の様になったそうです」
「残らずか?」
「ええ、みんな・・・それで、ユーリがーー」
耳打ちをしたは、被害状況の話を済ませる。
そして、ナイレンの後に続くように兵舎に足を向けた。
「ケガ人はどうだ?」
「予断を許さない方が2名、あとは処置を済ませました。
ケガ人20名死亡者3名です」
そんなにか、というナイレンには頷く。
ガリガリと頭を掻くと、疲れたようなため息をついた。
「すまん。俺の判断ミスだ」
「いいえ。
私とユルギスが居ても手に余りました。
これほど性急な襲撃は予想できませんでした」
肩を落とすに、ナイレンも押し黙った。
重苦しい空気を変えるように、ナイレンは話題を変えた。
「それにしても20人なんてケガ人。
よくも捌けたな?」
「街外れのお医者様の手を借りたので」
「医者・・・って、あの頑固ジジイか!?」
まぁ、語弊はないのだが素直に頷いてはいけない所でもあるため、は曖昧に笑った。
「でも、アスクラウ先生のおかげで助かったのも事実です。
あまり、そのような言い様は感心できませんよ?」
「俺は苦手なんだよ、あのジジイ・・・」
「同族嫌悪というやつですね」
「あのな・・・」
苦虫を数十匹は噛潰したような顔をした、ナイレンには肩を竦める。
そして、表情を改めたは上司を見上げた。
「ナイレン・フェドロック隊長。
お話ししておきたい事があります」
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2019.7.8