魔物を一掃する作戦は成功した。
しかし街中は未だピリピリとした緊張感の中にあった。
ーーAct.1-9ーー
巡回の仕事を終えたユーリ、フレン、ヒスカ、シャスティルの4人は酒場へと足を運んでいた。
息も詰まる緊張を晴らすには、絶好の場所だ。
しかし入り口をくぐり、飛び込んできた光景にシャスティル、ヒスカの表情は曇った。
「やだー、ギルドがいるわ」
「タイミング悪ー」
「何だよ、ギルドって?」
聞き覚えかあったように感じたが、なかなか思い出せない言葉をユーリはシャスティルに訊ねた。
「帝都の下町にもいたでしょ?
自警団気取りで金儲け主義の連中よ。
ユニオンって組織母体があるの。
ドン・ホワイトホースってのがボスの名前」
「とにかくガラが悪いの」
姉妹が同じ渋面で返す。
それを聞いた漆黒は、何かを思いついたように、口角を上げた。
何も企んでいないという表情では絶対ない。
「ふーん・・・」
「あっ!」
「ちょっとユーリ!」
咎める2つの声を無視し、ユーリはギルドが盛り上がっている近くの席に腰を落ち着けた。
そのおかげで、難なく会話の内容が耳に届く。
「でな、森を抜けて向こうの街まで行きてぇっていうからよ、
前金で全部よこしなって言ってやったんだよ」
「「「はははははは」」」
禿げ上がっている男の話に、取り巻きの男達が腹をかかえて笑う。
笑えない会話の内容に、視線を鋭くするユーリ。
と、釘を刺すように隣に座ったヒスカが声を潜ませる。
「止めてよね、騒ぎなんて起こさないでよ」
「いらっしゃい」
二人の水面下のやり取りに気付くことなく、ウエイトレスがユーリとヒスカの前に水を置く。
「マーボーカレー二つね。あと、ミルク頂戴」
「ワンッ」
自分の分だと伝えるように、高く吠えたラピード。
足元にちょこんと座っている姿に気付いたウエイトレスは顔を綻ばせた。
「あら可愛い。この子も隊員さん?」
「まだ登録されてないよ」
苦笑するように答えたユーリ。
暫くラピードを撫でていた店員だったが、ちょっと待っててね、と調理場へと足を向けた。
その間もギルド達の会話は続く。
「んで、めんどくさくなってよ、森を抜けたところでその爺さん置いてきちまったよ」
「いけねーなー。
きちんと街まで護衛しねぇとな」
「「「いやははははははー」」」
視線を交わし合って、笑い合うギルド。
ゲラゲラと嘲笑が止まらない中心へ、無感情な言葉が投げ入れられた。
「いい加減な仕事で金巻き上げて飲んだくれるたぁー良い身分だなぁ」
ピタリ、と笑いが止み、辺りの空気が凍る。
ガンをつけてくるギルドの連中に、ユーリは何事もなかったように水を飲んでいる。
そんな新人にヒスカは頭を抱えたが、テーブルに来たギルドにそそくさとその場を離れた。
ーードガッーー
「よぉ、元気いいな騎士さんよ。
目ぇ見てもっぺん言ってみな」
据わった視線で間近で睨みつけるハゲ頭のギルド。
しかし、睨みつけられている方のユーリはどこ吹く風だ。
「チンピラのリアクションはどこも一緒だな」
「あぁん?!」
「ちけぇよ。そっちのケはねぇぜ」
にやりと笑うユーリから言われた意味に気づいたギルドの男の顔が怒りに染まる。
「てめぇー!」
掴みかかろうとした男だが、ユーリは器用にかいくぐり、飲みかけの水を浴びせる。
ピタピタと滴る音。
米神に血管を浮かせ、本気で怒った男はユーリと自分との間にあったテーブルを殴り捨てた。
「だー!」
「よっ」
しかし、ユーリは軽快な動きでかわすと、座っていた椅子で男を伸し倒す。
そして、周囲を取り囲むギルドへ挑発することも忘れない。
こんなもんか?とばかりな態度を見せられ、ギルドの連中は一斉に腰を上げ、辺りはあっという間に乱闘場となった。
「フレン、止めてよー」
食器が飛び交い、負けるなとばかりにラピードの鳴き声も響く。
ヒスカの心底困った声が、騒ぎを起こす張本人の幼馴染に向けられる。
しかし、当人は素知らぬ顔で食事を口に運んでいた。
「ユーリが勝手に始めたことじゃないですか。
僕には関係なーー」
ーーバキッ!ーー
「てめぇ、スカしてんじゃねぇぞ」
ユーリに伸されたはずのハゲ頭が、フレンに一発見舞う。
痛みの為か怒りの為か、しばし肩を震わせたフレンは立ち上がった。
そして、
「関係ないって言ってるだろ!」
ーーゴスッ!ーー
ハゲ頭、昏倒。
肩を怒らせ、乱闘の中心へと足を進めるフレン。
そこには大男に羽交い締めにされたユーリが複数のギルドに殴られていた。
と、そのユーリを掴んでいた男の肩に手が置かれる。
振り返った男は、鋭い拳に殴り飛ばされた。
仲間がやられたことで、ギルド連中の標的が変わる。
「何だてめぇ!」
「やっちまえ!」
威嚇する声にもフレンの歩みは止まらない。
幼馴染の目の座りっぷりに、思わずユーリが声をかける。
「お、おいっ」
しかし、効果はなく次々とギルドを床に沈めて行く。
ユーリとフレンの二人にギルド連中は劣勢になっていく。
そして、ハゲ頭の男が懐に手を伸ばした。
あとがき
あぁ、やっちまいましたねぇ〜
Next
Back
2019.3.6