「よぉ、。
いい加減、うちに来ねぇか?」
「何度も言わせないでください、メルゾム。
お断りします」
「ナイレンとこじゃ、腕が鈍んだろ?」
「余計なお世話です」
「その強気に度胸。帝国の犬にしとくにゃもったいねぇ」
「・・・・・・褒めていただいて光栄だなんて言いませんよ?」
ーーAct.1-7ーー
は今、喧噪に包まれている酒場に腰を落ち着けていた。
なぜかと言われれば、仕事だからだ。
先ほどから会話を交わしている男、この人物を見張らなければならないという大変不本意な任務を目下遂行中。
男の名は、メルゾム・ケイダ。
この街、シゾンタニアを拠点とするギルドの頭領だ。
さらにこの男にはもう一つの顔がある。
自分の上司、ナイレンと昔馴染みだということ。
それは必然的に、自分ともある程度馴染みだと言うことでもある。
ま、隊長ほど親しい間柄でもないのだが・・・・・・
「かわいくねぇ奴だな、嫁の貰い手がなくなるぜ?」
「かわいいだなんて思われたくありませんよ。
それに、プライベートに口出し無用です」
あくまで笑顔で、だが強烈な毒舌で切り返す。
ここまで言い合えれば、世間では昔馴染みと言われても遜色ない。
が、自身は頑としてそれを認めたくないでいた。
「行き遅れたんなら、ギルドにちょうどいいのがわんさかいるぞ」
「私より弱い男なんて願い下げです」
「そこのレイヴンなんてどうだ?」
「んぁ?」
突然、話を振られた当人から情けない声が上がる。
それは酒で酩酊しているそれ。
だらしなくしゃくり上げる姿に、は最大級の笑顔を貼り付けて口を開いた。
「そこの酔っ払いを近づけたら斬り捨てますからね」
おっかねぇ女だ、と言ったメルゾム。
しかし、その言葉とは裏腹にさも楽しそうであった。
もう構うのも面倒だとばかりに、カウンターに座っていたは深々と嘆息する。
その姿を女性を侍らせて見ていたメルゾムは話題を変えた。
「そういや、新人が来たそうじゃねぇか。しかも二人」
「・・・相変わらず、耳が早いことで・・・・・・」
僅かな沈黙の後に放たれた言葉。
小さく廃れつつある街とはいえ、騎士団の内部情報は簡単に手に入るものではない。
そのはずなのだが・・・
「なぁに、俺にかかれば朝飯前だ」
「・・・どうせ酔っ払った隊長から聞いたくせに、威張らないでもらえます?」
呆れ返るに、悪びれる訳でもなくメルゾムは肩を竦めた。
「まぁ、そんな事よりだ」
「何をもってそんな事なのか、果てしなく理解に苦しみますが?」
刺々しい言葉に、男は気にする事なく手に持った杯をへと向けた。
「森でナイレン達がやってる作戦だがな、どうしてそんなに焦る?」
「答える必要性を感じません」
清々しいまでに、きっぱりとした答え。
向こうが何かを掴んだとは考えにくく、カマをかけられているだけの可能性が高い。
それにいくら隊長の口が軽いとはいえ、今回の作戦の詳細を漏らすことはないだろう。
「らしくねぇ、と思ってな」
「街の住民を守る仕事を考えれば当たり前です。
この街のギルドが飲んだくれのていたらくな方がらしくないのでは?」
言外に込められた皮肉に、メルゾム以外の下っ端が立ち上がった。
全員から殺気ある視線が突き刺さる。
一触即発。
しかし、それを物ともせずは悠然とカウンターに座っている。
にじり寄るギルドのメンバーに、メルゾムは片手を挙げその先を制した。
「待て」
「あら、別に構わないですよ?私としては大歓迎ですから」
うっそりと笑う。
その手は腰に下げられた愛刀に触れていた。
挑戦的な誘いに、ギルドの頭領は豪快に笑った。
「がっはっはっは!
その手には乗らねぇよ。ナイレンの野郎から言われてたからな」
「・・・隊長が私の何を言ったっていうんです?」
「うちの華を甘くみると、棘と毒に手痛くやられるってな」
にやにやと笑うメルゾムに、余計な事を吹き込んでくれたとばかりには顔をしかめる。
「わざわざ手ぇ出すなったぁ、お優しい隊長殿じゃねぇか」
「・・・それは過保護って言うんですよ」
ふぅと、小さい嘆息が響く。
ありがたいと思えればいいのだが、如何せん長い付き合いだからこそ素直になれない部分でもある。
困ったようなそれでいて嬉しいような複雑な表情を浮かべる。
メルゾムは珍しいこともあるものだとばかりに目を丸くする。
いつもであればその指摘がすぐに口を突くというのに、今日に限ってその横顔を眺めていた。
しかし、常のやり取りとは怖いもの。
やはり普段通りに話が戻っていく。
「ま、どっちでもいいじゃねぇか。
それより、あいつらが帰るまでここに居んだろ?
少しは酌でもしやがれ」
ちょうど空になったグラスを差し出す。
それを見たは、誰もを魅了するように美しく笑った。
そして、形の良い唇が開かれる。
「死んだって願い下げです」
あとがき
ユーリ達が作戦行動中のさんとメルゾムとのやり取りでした。
が気を遣わずに、遠慮なくズケズケと言えるのがメルゾム。
それをメルゾム自身も楽しんでいるからこそ、成り立っている関係なのです、ハイ。
Next
Back
2019.2.1