新人2人の歓迎会も済み、辺りはとっぷりと日が暮れた。
まだ隊員の数名は酒場に残っていたが、夜風に当たりたくては店を出た。
ーーAct.1-5ーー
(「気持ち良い〜」)
アルコールで僅かに火照った身体にはちょうどいい風だ。
人気もないことで、せっかくだからとはある場所に向かって歩き出した。
本来であれば、このような深夜でも多少ながら人の往来はある街だった。
しかし、3ヶ月前ほどから魔物の被害が出始めた。
幸いとしてまだ住民への被害はない。
往来を妨げられるとか、家畜が数頭減ったとかその程度。
だが、常に結界内で暮らす住民にとっては安穏とできる状況とはならなかった。
強迫観念に駆られ、すぐさま帝都に移住した住民も少なくない。
願わくばこれ以上事態が深刻化にならないことを祈るしかできないだった。
本心を言えば自分も部隊を率いて魔物を討伐し、この状況を脱したいところだが・・・
そこまで考え、浮かんできた人物にはたと歩みが止まる。
なぜ自分が戦えないのか?
それは、アリスブルーの銀髪が頑として首を縦に振らないからだ。
「・・・過保護もここまでされると、ちょっとねぇ〜」
口をついた想いに、苦笑がこぼれる。
そして、いつの間にか目的の場所にも着いてしまったようだ。
そこまで考え込んでいたわけではないのだが、到着したことで考え事を中断する。
「うわぁ〜、キレ〜」
そこはのお気に入りの場所だ。
街の裏側にあたるそこ。
自然に出来上がった岩の上にある街のため、城壁の必要がない。
そのため視界を遮るものもなく、遠くまで豊かな自然の情景が一望できる。
それに、今日は何より夜空を埋め尽くす星が見事だった。
(「ほんと、この街に来れて良かった・・・」)
最近、このように想うことが多い。
それがなぜかは自分がよく分かっている。
(「・・・私って、幸せ者よね」)
「こんな夜更けに女性一人とは危ないですよ」
響いた声に、驚くことなく振り返る。
漆黒に染まる肩を越える長い淡黄色の髪、眼鏡越しに向けられる鼠色の瞳。
ナイレン隊での付き合いは長いが、未だに彼には苦手意識を持っている。
軍師、ガリスタ・ルオドー。
「心遣い、痛み入りますわルオドー軍師。
こんな時間までお仕事ですか?」
せっかくの一人の時間に水を差された気分だった。
だが、極力それを出さぬよう、当たり障りのない言葉で相手に返す。
向こうはそれを分かっているように、人当たりの良い笑顔を浮かべる。
「まぁ、そんなところです。
フェドロック隊長から、大規模な魔物狩りの計画を持ち出されましてね」
眼鏡を押し上げ、得意げに話す軍師。
一人の時間を邪魔された事もあって、早々に部屋に戻りたいのが本心だ。
しかし、仕事をする相手でもある以上、邪険にも扱えない。
「ーーですので、今回の計画に関してはーー」
「ルオドー軍師。
お話していただけるのは嬉しいのですが、当日の楽しみが減ってしまいます。
その計画は、直接見させていただきますわ」
「これは私としたことが・・・
失礼しました、フォールグ副隊長」
「では、冷えますのでこれで」
言うが早いか、身を翻すとあっという間にガリスタと距離をとった。
颯爽と足を進めても、先ほどとは違い夜風が気分を変えてくれることはなかった。
(「仕事もできる、戦略も悪くない、隊長からの信も得てる。
でも・・・・・・」)
そこから先の言葉を、は紡げない。
何しろ、根拠がない。
自分だけの勝手な思い込みと言われてもおかしくない部類の言葉だ。
「はぁ・・・」
隊舎の入口でついに足が止まり、思わずため息がこぼれる。
これ以上考えるのはよそう。
仕事も明日にまわして、今日は早々に休んでしまおうと決めた。
その時、
「おぅ、。
ど〜こ行くんだ?」
「酒場に戻るのかい?」
「隊長、ユルギス・・・」
陽気な二人には苦笑を浮かべた。
「いいえ、今日はこれで休もうかと。
二人は飲み直しですか?」
「おぅ!酒場のマスターからいいもんを貰ってな〜」
「隊長の部屋で飲もうって言ってるんだ。
一緒にどうだい?」
ありがたい誘いだった。
確かにこのまま休んでも、先ほどのことに考えを巡らしそうだ。
ここはお酒の力を借りるのも良いかもしれない。
「そうですね、せっかくなのでご一緒させてください」
「そうこなくっちゃな〜」
「僕はグラスを用意してくるから、は・・・」
「じゃ、私は肴でも作りましょ。
良いお酒に何も並んでないなんてつまらないもの」
「でかしたユルギ〜ス!
の料理は一級品だぜ〜」
「ナ、ナイレン隊ちょ・・・く、首ーー」
歩きながらもじゃれあう二人に、ついには苦笑を浮かべる。
「酔っ払った振りしておだてても、何も出ませんよ。
ナイレン隊長?」
「あ?なんだバレてたか」
「ゴホっ・・・・・・酒豪なのは僕達二人が良く知ってますよ」
「ええ、そういう事です」
部下二人が口をそろえたことで、ナイレンは声を上げて笑う。
そして、ユルギスもつられるのだった。
あとがき
と軍師は微妙な均衡を持った関係。
ってか、絡みが少なすぎる!?
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2019.2.1