食堂から馬宿に着いたとエリオス。
そんな二人の目の前では、激しく火花を散らす言い争いが続いていた。
こちらに気づく気配はない。
ーーAct.1-3ーー
時間の無駄だと、即座にやめさせようとした。
しかし、おもしろそうだからもう少しだけと、エリオスのわがままに付き合ってはや15分が経過しようとしている。
「・・・エリー、気が済んだ?」
「もうちょっと!あともうちょいだけ!!」
「はぁ〜・・・」
この子の性格にも困ったものだ。
早く仕事を片付けないと、残りの執務にも差し支える。
さて、どうしようかと考えていた時だった。
(「そうだ、良い事思いついた」)
普段であれば彼女はそのようなことをしないのだが仕方ない。
何しろ、新人である彼らも場をわきまえていないと言うのもある。
似たもの同士の青年二人組みにはちょうど良いお仕置きである。
はワクワクと成り行きを見守る緋色に近づいた。
「ねぇ、エリー。
確か新人と腕試ししたいって言ってたわよね?」
「え?うん、言ってた!」
耳打ちされた内容に惹かれたエリオスの目がキラキラとこちらを向く。
その期待に応えるように、はキレイに笑んだ。
「仲裁という名目で、治癒術が必要ない程度に戦う事を許可します」
「やりぃ♪」
嬉々とした様子で、パチンと指を鳴らした緋色。
喜び満開といった様子で両肩を回し、その場で屈伸。
「おっし!準備OK!」
明るい声でそう言うと、軽い助走をつけ走り出す。
そして、
「ケンカ、りょ〜せ〜ばい!」
ーーバキッ!ゴスッ!ーー
「「ごはっ!!」」
きれいに決まった踵落とし。
着地のキメポーズまでばっちなエリオスに、副隊長からは拍手が送られた。
「いやいや、お見事〜♪」
「えへへ〜、褒められた〜」
微笑ましい場面のようだが、地面には無残にも撃沈された新人隊員が屍と化していた。
「さて、改めまして。
フェドロック隊副隊長、・フォールグです」
にっこりと人当たりの良い笑顔に向けられるのは、不機嫌さを隠さない青年と、恐縮している青年。
こちらに食って掛かってこないのは、原因は自分達だという事は分かってくれたようだ。
「シゾンタニアへようこそ。
帝都から結構時間かかったでしょ?」
「はい!しかし、これも訓練と思えばーー」
「あ〜、硬い硬い。
もっとリラックスして大丈夫よ?」
「は!ありがとうございます!」
「・・・あははは」
だから、硬いってと内心呟く。
しかし初日だから仕方ないか、と結論付けたに金糸の青年が再び敬礼をする。
「先ほどはお見苦しいところを失礼しました。
本日付で着任した、フレン・シーフォと申します」
「は〜い、フレン君ね。
よろしく」
「・・・ユーリ・ローウェル」
「ユーリ!副隊長に対する口の聞き方がーー」
「にゃははは〜
久しぶりにこの街もにぎやかになりそ〜」
不貞腐れている長い黒髪の青年、ユーリを窘めるようなフレンを遮る笑い声。
この場を楽しんでいる緋色に、が困ったように口を開いた。
「エリー、あなたも初対面ならやることあるでしょ?」
「おっす!
エリーだよん。またケンカしたら仲裁してあげるからね♪」
「・・・彼女はエリオス・クロムウェル。
あなた達より2年ほど先輩になるかしら?」
「そそ、先輩なのだ〜敬え敬えww」
からかう緋色に、ユーリの機嫌が急降下するのが分かる。
このまま放置してはまた収拾しなければならない事態になる。
「エリー?
ユルギスを待たせてるでしょ?」
「あ!そうだった!
じゃ、また後でねお二人さ〜ん」
ひらひらと手を振るエリオスに、フレンは敬礼を、ユーリはそっぽを向いて応じた。
本当に性格が正反対の二人だな、と苦笑を浮かべた。
そして、新人二人を引き連れ兵舎内の案内を始めた。
「二人とも、ケガは平気?」
「はい、ありがとうございます」
「大したことねぇよ」
「それは良かった。
久しぶりの新人さんだからしばらくの間、エリーが絡んでくると思うけど気をつけてね」
ケガをするように仕向けた張本人であるは楽しげにそう言う。
言われた意味が分からずフレンは不思議そうに聞き返した。
「あの、フォルグ副隊長。
気をつけるというのは、どういう意味でしょう?」
「あ、ごめんなさい。
あの子、暇さえあれば腕試しを仕掛けてくるのよ。
ここの隊じゃ日常茶飯事になってるわ」
「はぁ・・・」
「上等だ・・・」
ボソッと呟いた言葉をは聞き逃すはずもない。
負けず嫌いな性格が顔にも表れているようなユーリに、歩きながら視線を向けた。
「元気があって結構♪
ケガしたらいつでもいらっしゃい、手当てしてあげるから」
「んなもん、いらねぇよ。
今回は油断してただけだ」
「ユーリ!」
咎めるようなフレンを黒髪は受け流す。
も気にすることなく、楽しそうに笑顔を浮かべると視線を前に戻した。
「その負けん気、頼もしいわね。
でも、エリーの腕前を甘く見ないほうが良いわよ〜
男性隊員と相手をしても彼女の腕前は遜色ないものだわ」
「次は絶対勝つ・・・」
「ここでは特別な訓練をしているのですか?」
「いいえ。
訓練メニューは私ともう一人の副隊長と一緒に考えている普通のものよ。
エリーの腕が立つのは・・・・・・ま、本人に直接聞いたほうが良いわね」
話しながら歩いていたが、目的地へと到着した。
いつも見慣れた扉の前に立つと、はくるりと新人二人に向いた。
「さて、まずは我が隊の隊長にご挨拶をしてもらいましょう。
細かい事はその後でね」
そういうと、目の前の扉を押し開けた。
あとがき
到着早々、一人のヒロインが暴走アタック。
その手綱を取る、大人な副隊長(笑)
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2019.1.26